第41話 実験2
アイテムボックスという能力は認識次第で使える能力が変化するのだろうか。
ヨシヒトが思う。
視界に入る何もかもをアイテムボックスに放り込んでいく。
店先に出ているリンゴや果物。調味料や穀物。
食べ物にとどまらず織物やアクセサリー類。何もかもをアイテムボックスへと収納していた。
「これはすごいな。見ただけでそれを俺のものにできるのか。もう、これは最強すぎて敵なしだろ」
独り言。
街の喧騒の中、店の商品が片っ端からなくなっていく光景に驚愕する人間たち。
ヨシヒトはそれに目もくれず、そこにある商品、全てに視線を送りアイテムボックスに入れる。
レベルが上がったような気がする。
スキルや能力はやはり使えば使うほどレベルが上がるのか。
収容量が増えた気がするが、基本的に最初から無限に入りそうな気がしていたので気にするまでもないが。
「別に、何もすることもないか」
食べ物には当分気にすることはなくなった。しかし原料だけであるので調理する必要はあるが、カノンにやらせればいいだろう。
たくさんの貴重品もアイテムボックスに入っている気がするので、別の地域に行って換金でもすればいいだろう。余った物はカノンにやればいいだろう。
このまま一旦宿屋に帰ろう。
ヨシヒトは身を翻し泊まっている宿へと引き返すことにした。
○
「なに? 盗難? そんなもの警察にでも任せておけよ」
江津が叫ぶ。同じテーブルにはカノンが座っている。その身の丈に似合わない豪華なドレスを身に纏い、江津なんて気にしていないとばかりにテーブルマナーもなっていないまま食事を続ける。
「申し訳ありません。警察の方から上層部に協力の申し出がありまして。もう私達では手がつけられない状況であります」
「…………わかった。説明しろ」
報告した男の後ろに控えていた女性が「では」と口を開いた。
「かんたんに概要だけ説明いたします。
店に並べられた商品が突然消えるという現象についてです。実はその光景を私も目撃したのですが、そこに人間はおらず、忽然と、瞬間的にそれが消えてしまうのです。それも大量に。
まばたきをする一瞬で、何十キロもものを移動できるものなのでしょうか。もう一般犯罪ではありませんので。早期解決をするために江津様のお力を借りたい所存でございます」
「そうか。一旦俺がどうにかしよう。ご苦労だった。そこの飯でも食っていけ」
江津が労い、カノンが食事しているテーブルへ案内する。
報告しただけなのに江津が食べるような豪華な食事にありつけるとは、この警察官たちもどれほどの善行を積んだのだろうか。
「カノンさん。今から私は仕事をしていきます。では」
「そ、そうですかー」
両手にフォークを持ちその先には肉が刺さっており肉汁が滴る。
口いっぱいにご飯を詰め、それしか言うことができなかった。
しかし、この江津という男にどう思われようがカノンには関係がなかった。一ヶ月。それが過ぎればもうこんな場所にはバイバイだと思っていたが、二、三日留まっていてわかったが、この城で出てくる食事はどれも美味しい。
その事実だけが心残りである。
おそらくヨシヒトやドラケンと旅をするにして、毎日これほどの美味しい料理を食べられることはそうないだろうと思うと、江津の思う通りにここにずっと滞在しても良いのではないだろうか。
そんなふうに思考が凝り固まる。
つまりは、「餌付け」されてしまったようで。
○
「なんだ。あの人間が入国したからおかしなことばかり起こる。
この《アストレア、コープ》は本当に本物なのか??」
そう言いつつ、水晶玉の様なそれを起動する。
ぱあと、半透明なディスプレイが広がり、国内のすべての人間が名簿としてこのリストに乗っているのがわかる。文字だけのそれをタップすればその人間が暮らしている生活圏の航空写真が映る。
NPCに対して編集を加えるツール。それが《アストレア・コープ》というが、この数日でバグがいくつか生じていたのだ。
「どうするか。結局起きてしまった現状は記憶を弄ってもどうにもならないが。
そうか。一旦王が買ったことにすれば問題ないか。一旦は戦争でもするから買い占めたとか、そんな噂でも一緒に撒いとけばいいだろう。しかし、なんだ。この窃盗? なのか。どうする」
一時的な対策を決めた江津は、コソコソとそのディスプレイをタップしたり消したりキーボードに文字を打ち込んだり作業を始めた。
「もう少し楽な編集だったらいいのに」
文句を言いながらその作業は就寝時間にまで及んだ。
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