第40話 おっぱい



 ドラケンは道行ながら隣を追従する胸のでかいエルフを見て鼻の下を伸ばす。




「おじさま。ドワーフなのに私たちを嫌悪しなくていいんですの?」




「そんなキャラじゃないわい。わしは女子ならなんでもええ。それが美しければなお」




「美的センスというか、感覚は違うんじゃなくって? ドワーフはエルフに欲情しないとか?」




「そんな感覚はとうの昔になくなったわい。今はビンビンじゃ。


 おっぱいがあれば誰でもビンビンじゃわい!」




「そ、そうなのね」






 おっぱいが大きいエルフからすればドワーフほど醜い存在はない筈なのにそんなに肯定されれば無下には出来ない。


 しかもドラケンは今は国が全ての飲み食い代を持っている状態なので、金払いは無敵だった。




「エルフよ。次は獣人の店が良いのう。エロエロな獣人にまとわりつかれたいのじゃ」




「そ、そうね。か、考えるわ」




「むほほほほ」




 ドラケンは今やただのエロオヤジである。









 ロリンデ警察署本部は昨日からの窃盗騒ぎの通報がひっきりなしに掛かってきて騒々しい。


「はいこちらロリンデ警察署。ーーーーはい。了解しました。すぐ向かいます」




 そう言って何件躱しただろうか。すぐに向かうとはいえ、今自分がここを抜けると電話番が圧倒的に足りなくなる。


 今や所長や引退したはずの老人さえ対応に勤しんでいるはずなのにそれでも手が足りないのだ。




 あまりおおごとにしたくない所長は、上層部には連絡をせずにこの部署だけで食い止めようとしている。


 城下町の窃盗などの治安は所長が出張っている身の上、増えれば増えるほど評価や首がかかってることから、部下はオーバーワークである。


 その結果、あまり人気と人望がないのが今の所長である。




 今回の事件。窃盗とはいえ、その場には誰もいないらしい。


 その場から瞬きする一瞬の隙に商品やモノがなくなっているらしく、犯人を突き止め様がない。




 最初は野菜や果物。穀類の食材が主だった被害を受けたらしい。


 その夜から衣類や魔導書などの少し高価なものが盗まれ始めたと報告を受けた。


 そして今日の朝から武器屋から全ての商品が一瞬で消えたと通報を受け、その数刻後に同じ様に店の商品棚からも在庫も全てがなくなったと通報を受けた。


 これは、本当に大規模な犯罪である。




 魔法を使った犯行であるのは間違いないのだが、その魔法というのは心当たりが全くない。


 そこで所長は冒険者ギルドや魔法研究所へと協力を要請し、数人の人材派遣が決まっている。




ピンポーン




 チャイムがなる。


 律儀に鳴らすのは客か上司だけである。


 おそらくここでは前者の客である冒険者か魔法研究員だろう。




「お、お待ちしておりました」




「で? 今わかっている現状を教えてちょうだい。それに、使われた手口と魔法の特徴!」




 入ってきたローブの少女はその身の丈に比べて大きな本を持っていた。


 その後ろには眼鏡をかけムッと一文字に口を結んでいる大きな女性がこちらを睨みつけている。


 彼女に圧倒されていると、少女が




「ねぇ。私が聞いているのよ? 早く答えなさい! 三下」




「ちょ、っと口が悪いかな、お嬢ちゃん」




 ぎょっと目を見開く少女を見る。罪悪感。


 なぜか自然に口が動いてしまった。


 後ろの大きい女性がニマリと口元を歪ませて笑うのが見えてわかった。


 これは




「思った事が口に出る魔法か何かか?」




「しまった、これも口に出てしまった」




「ーーーーもう何も喋りたくないのに、口から全てが漏れてしまう!!」




 少女が地団駄を踏んで




「ま、またなのね!! カリン! その魔法を使わないでって言ったでしょ!! メッ!!」




「ぶはっ」




 カリンと呼ばれた大きい彼女は大きく息を吐いて、勢いよく後ろを向き深呼吸をする。




「クァ、可愛すぎる」




「ちょ!?」




「しまった、また思った事が口から」




 大きな彼女は背を向けているが右手の親指を立てているのが見えた。


 おそらく自分に向けているのだろうとわかった。




「わかる。可愛すぎる」




 少女は頬をふくらませて「んっ! んっ!!」と足をダンダン鳴らしながら腹をかいていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る