第45話 そろそろ終わりの時間

「外はなにかあったか?」




「別に何もなかったけど」




 ニコニコとミィは買った焼き鳥を食べている。


 両手にたくさん持って食い意地が貼ってるなと思う。


 しかし、それを指摘することはない。意味がないからだ。




「兄さまはなにか気になることがあるんですか?」




「正直ありすぎる。まあ、お前たちは誰かに話すことはないだろうから正直に言うが、この街で大量にものを盗んだ。その結果、街全体が俺を探しているんじゃないのかと怯えている」




「だっさ」




 エリーがつぶやいた。


 ぐさりと内心に刺さるものがある。




「別に、そんな雰囲気はなかったわよ。


 あるって言えば、色んな人が戦争ムードだったわね。どこかと戦争するから兵站が大量に必要でこちらも特需にあやかれるぞってね」




「戦争? 特需? そんなことがあるのか。


 うーん。早めに国を出るか?」




 一人で考える。国を出るにしてもドラケンやカノンをどうにかしなければならない。


 特にカノンである。彼女こそ城に囚われていると言っても良い。


 結局、一人では何も決めきることはできないのだ。




「国を出てあてはあるんですか?」




「別に、そもそも俺は流浪だ。何も目的もなくここに来て、目的もなく旅をしているんだ」




「そうですか」




 ハルが疑うような目線をしているのに気が付いたのはエリーだけである。


 だが、そのエリーはヨシヒトに何も言うことはなかった。




「でも、何かを盗むなんてイカレタご主人さまね。とばっちりで捕まることがあったらたまらないかしら」




「エリーはそう言うが、結局の所俺が犯人という証拠はないはずなんだ」




「そう思うなら怯える必要はないじゃない。


 私達を使って何をさせたいの? おじさまを通じてどうして私達を奴隷にする必要があったのよ」




 詰め寄るエリー。狼の耳がピクピクと動いている。


 しっぽが軽くゆらゆら揺れている。


 興味があるのだろう。それもそうだ。奴隷契約なんてする必要がないのに無理やりさせたのだ。


 この際家政婦契約でも何も問題ないのだろう。




「それは全くわからない。そもそも俺が呼んだわけではないんだ。


 申し訳ないけど、ドラケンは君等がスキだけど自分では面倒見きれないから俺を保護者にしたって感じだろうと思うけど」




「おじさまが。私をスキ?」




 ぱあっと笑顔になるエリー。もしかしなくてもエリーはドラケンに好意を寄せているのだろう。どうしてあんなクソジジイを。




「知らんよ。奴隷契約だからって俺は君たちに何をすることもないし何も求めないけど。せめて迷惑のかからないように生きてくれ」




「兄さま」




「なに?」




「私は兄さまの言うことは何でも聞きますよ!」




「そう。わかった。じゃあ、これをあげよう」




 ヨシヒトはアイテムボックスから一つのバッグを取り出した。


 これはアイテムバック。中に沢山のものを入れることができる魔法のアイテムだ。


 つまりアイテムボックスの下位互換。それをミィに手渡す。




「こ、これは?」




「プレゼント。ちゃんと俺の言うことを聞いてね」




「はい!! 全身全霊で兄さまにご奉仕させていただきます!!」




 何をプレゼントしたのか説明していないが、ミィは本能的に魔力でも感じることができるのだろうか。それを魔法具だとわかったようだ。


 そして、即座に手に持ちきれないほど持っていた焼き鳥をそのバッグの中に入れる。


 …………タレとか大丈夫かな。




「ふん」




 そういって右手の平をこちらに向けるエリー。




「なに?」




 エリーに何かをあげようとは思っていなかった。


 特に、彼女は余り言うことを聞いてくれ無さそうだからだ。


 それに、彼女は大人びている。そんな彼女に賄賂のように送るのはいかがなものか。




 なんて建前で、反抗する彼女に意地悪でもしようと思っただけだった。




「なにもないよ」




「…………なんでよ!! ハルにもなにかあげたんでしょ!! あの首輪!!


 私にもなにか合って当然でしょ!!」




「そう思って当然だと思ってるエリーにはなにもないかな」




「ふん!! だっさ。そうやって差別してればいいじゃない!!」




 そっぽを向くエリー。そのままハルが埋まっているベッドと壁の隙間にダイブする。




 そして、ヨシヒトは椅子に腰掛けカノンの救出について考え始める。その膝の上にはミィが乗った。癒やされる小動物だ。自分を兄として慕ってくれるなんて、妹の居なかったヨシヒトにはとても特別に思える。


 そういえば、カノンはどうだったかな。


 長い間、というほど長くはないが、居なくなって久しい。


 この世界に来てカノンは罪悪感の象徴だ。


 彼女が居ないほうが、こうやって楽しめるのだろうか。




 それとも、彼女をずっと抱えておかないと、同じことを繰り返してしまうのだろうか。




 それに。




 アイテムボックスの一覧の中に文字が赤くなってる一つを見る。


 それは、ドラケンの連れのエルフの死体。




 これも、どうにかしないといけない。




 どうしても、カノンとドラケンにはヨシヒトの近くに居てくれないといけないんだ。




 そろそろ、江津からカノンを返してもらうか。


 彼女が居なくなって一週間も経っていない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アイテムボックスの賢い使い方 藤乃宮遊 @Fuji_yuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ