第43話 子供署長
江津の行動は早かった。アストレアコープを使い、過去を変更した。
例えば、強盗が入ったと言われ、実際に品物が大量になくなった店は、王宮が馬車を用意して直接購入しに来た。もう馬車に入り切らないくらいいっぱいいっぱいに詰め込んで買っていった。などと、誇張する表現などを使って、ともかく、実際の犯罪とは別の平和的な記憶に入れ替えを始めた。
その代金は、大小に関わらずに江津の子飼いの子弟たちに帳簿につけるように指示をした。
アストレアコープは実際そこまで万能ではないのだ。
人間の考え方を根本から変更できる力で、簡単に洗脳できるし、簡単に調教できる。
しかし、それは頭の中だけ。記憶の中だけ。
正直に言って、現実にはなんの影響力もない。
物理的には何も変更するとか、干渉することなんてできないのだ。
よって、国中の記憶を弄り倒しても、その現実に存在している日記帳には別のことが書いてあるだろうし、即座に実物がどうなることもないのだ。
よって、江津の子飼いたちは全力で事にあたることになる。
夜のうちに家に忍び込み、帳簿の改ざんや写真の偽造。それに誰にも気づかれてはならないために最新の注意を支払うことになった。
その結果、次の朝には誰も強盗の話はしなくなり、一旦は平和になったのだ。
前日に調査をしていた、一部の警察官を除いて、基本的には、ヨシヒトが起こした盗難事件は全く話題にも上がらなくなったのだ。
そう、不自然なほどに。
○
「せ、先輩。これはめっちゃ不思議ですね。あんなに鳴り止まなかった電話が今日は何も何ですよ」
「そ、そうだな。カリン。今日は私に近づくなよ」
「ふ、ふふふ」
不敵な笑みを浮かべながら、長身の女性は顔を隠す。
「いやぁ、協力してくれるって言うのに申し訳ないですねぇ。もう帰って良いのでは?」
頭をかきながら、嫌味げに言うのはロリンデ警察署長。
それもそのはず。上に情報を上げる前に片付けたかった案件がすでに江津の耳にまで入っており、その一方でその事件は基本的に解決していたようなものなのだ。
昨日の報告書を読んだところ、そんな情報は一切ないにもかかわらず、窃盗など強盗などが原因として挙げられている。
しかし、その実際には戦争の食料や備品の確保で一時的に市場から何もかもがなくなっただけであり、それも基本的には今日中に改善される手はずになっているのだ。
だが、強盗や窃盗などの調査をするはずの魔導犯罪課の二人がずっと警察署に居座っている。
それが問題で、とても面倒なのだ。
この二人は、よく問題を起こすことで有名な「ファイアーガールズ」なんて言われているのだから。
「しかしですな。もう事件が一人でに解決してしまっているので」
「それは違う。こうやって昨日の私が調査した報告書だってある。私がウソを付くはずないだろう。それに調査用の動画で市民が言っているではないか。強盗だ。一瞬目を離したスキに何もかもがなくなっていた。と。こう実際の証拠もあるし、その調査過程もあるのだから何も心配することないだろう。この調査を私達に任せてくれれば良いのだよ。その許可をこれに判子を押すだけで完了できるのだから。私達はうるさいぞ。思い通りに行くまで座り込むからな」
「お、同じ組織でありながら。それも、こちらが下手に出ていれば調子に乗りやがって。
どちらが立場が上なのか知っているのか? 魔導犯罪課よりも私のほうが権限は上なのだぞ?」
禿げ上がった頭から湯気を出しながら怒る署長を尻目に、座り込む女。
その姿は幼子が腹をかいているようだった。親におもちゃを買って貰えないからぷりぷりと怒っている様に告示している。
女の背丈は低く、たしかに少女に見間違えられるだろう。
床にぞろ轢いているローブなど、小さな子が大人ぶって背伸びしている様だった。
つまり、署長以外はその子供ながらの姿をみて癒やされているのだった。
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