第19話 シークレット
それは、深いダンジョンの奥。
エルフの超級冒険者である、カイエルはその得物である長剣を振り回す。
「なんと、本日は獲物が少ないな」
相対するモンスターはジャイアントバット。深層97層の一般モンスターである。
と言いつつ、そのモンスターは基本的に群れで行動し、ジャイアントバット一匹を発見すれば、そこには後100体は存在するほどだと言う。
結局、カイエルが倒したのは、ジャイアントバット132体であり、平均を大きく上回る。
しかし、カイエルのダンジョンでの基本行動階層は150を大きく上回る為に、100層にいかないこの場所でどれだけモンスターが群れていようが、結局は雑魚なのでなんら問題はなかった。
100層を超えれば、ジャイアントバットほどの大きさではないが、それ以上の群れで行動するモンスターなどはたくさん存在する為に、全く問題はない。
「それに、このダンジョンに何かあると言うが、結局昔と何も変わりはないな」
「そうだな。珍しく意見が合うようだ。
ギルドの新人にもあまり見込みのある奴はいなかったしの。
最近はシケておる」
ドワーフの超級冒険者。彼は自身よりもはるかに大きな鉄槌をもち、明らかに異様な速さでそれを振り回している。
一回振るごとに五体前後のモンスターが巻き込まれる。
しかも、彼の顔には汗一つかいていないので、おそらくは本気でもない。
ある程度の実力を持った人間でも、この早さで鉄槌が叩きつけられれば骨折以上。死亡も考えられる。
ドワーフの名前はドラケン。200年前の王国クーデターの際、騎士団長をしており、それから冒険者へと転身。それから、ダンジョンを異常な早さで駆け抜け、冒険者ランクはSランク。それに深層よりも深い場所で見つけられる、ダンジョンドロップ、【破壊の神鉄槌】を手に入れてからは、現存している人族では、誰一人と手がつけられなくなった化け物である。
彼は、今エルフと競争していた。
エルフであるカイエル。彼はまだ若い。
エルフの平均寿命が400と言われているが、しかしカイエルの場合、まだ二桁なのだ。
「39の子供の割には、結構やるではないか」
カイエルは、ドラケンに全く歯が立たない。しかし、意気込みだけはドラケンに噛み付いて離さない。
カイエルも深層冒険者。超級冒険者であり、その実力は、一般をはるかに超越する。
この世界全体で見ても、上位の数%に入るくらいの実力者であるのには間違いはないのだが、その彼を赤児の手を捻るように軽くあしらうのがドラケンである。
「なんの。この程度で褒められたくはない」
「人間で考えれば、まだ10歳程度であろう。そんなエルフが俺と戦線を共にするとはな、はっはっは。歳はとりたくはないもんだ」
この世界。此の都市も全て。
人間が基準となる。
理由は、人口の8割が人間であるからだ。
そのほか。エルフやドワーフ。亞人族は、彼らで組織を持っており、人間とは交流はあるが、別体系である為に、あまり関係はない。
長く人間社会で生きるドラケンは、人間基準に全てを考える。
たまに、自分がドワーフという亞人ということを忘れて。
「老人は、僕に技術を教えて死ねばいいんですよ。若い世代に自分を残せるのは、老人の生きがいでしょう」
「そういうな若輩者め。まだ俺は現役だ」
そういうが、ドラケンを人間にあてはめて考えてみれば、60代を少し上回っているのだ。
しかし、彼は、カイエルよりも動きが機敏で、瞬発力はくらべられない。
そんな会話をしながら、彼らは一般人には考えられないほどのスピードでダンジョンを駆け下りているのだった。
会話ごとにポップするモンスターは、基本的にはドラケンの威圧で動けなくなるので、その威圧が効かずに、こちらへ向かって来るものだけを殺し、先へ進む。
「それにな。老人はいたわるものだ」
「やっぱり、老人なんだろ。老害め」
軽口を叩けるほどには、まだ余裕がありすぎる。
「ところで、ダンジョンの異変とは、なんなのだろうな」
カイエルは頭を悩ませる。
結局、戦闘能力に長けたカイエルだが、彼は人間的には10歳なのだ。彼がドラケンの足元並みに戦闘能力があるといえば、生まれて此の方ずっと戦闘をしていたのだろう。
勉強をあまりしてこなかっただけに、知識が偏りすぎている。
結局は、戦闘能力はドラケン以下。それに知識、頭の良さもドラケンよりも大きく劣っている。
「それを調査するもの、俺たちだろう? それで? 今日は俺に勝つんだろ」
挑発するようなドラケンの言葉に、二人のスピードはまた早くなる。
ドラケンの威圧も強くなり、此の階層のモンスターはその場でうずくまることしかできなくなる。
結局、二人はなんの戦闘もすることなく、130階層にまで進むのだ。
「ここは?」
カイエルのつぶやきに、ドラケンも「ほぉ」と感嘆を漏らす。
そこは、ダンジョンの天井まである大きな扉。その装飾は、王国、帝国に比べられないほどに豪華絢爛であり、その側面の壁にも同じような装飾、絵画が描かれていた。
「これが、ダンジョンの異変か?」
「違うぞ。俺も久しぶりに見たが、これはシークレットエリア。隠し領域だな。
ここに入れば、中の強化されたモンスターを殺すことでしか外に出られないが、その代わりに殺した時にドロップするアイテムは、素晴らしい性能を発揮する」
そう、ドラケンの此の鉄槌。【破壊の神鉄槌】も別ダンジョンのシークレットエリアで手に入れたのだった。
だが、彼の場合、こんな浅い階層ではなく、もう少し深い階層であった。
おそらくだが、ここのドロップアイテムは、ドラケンの鉄槌ほど良いものではないだろう。
それでも、此のカイエルにとっては、いや人類にとっては果てしないほどのアイテムだろう。
国宝級。ワールドアイテム。そのくらいまでは貴重であろう。その分、能力も強力であろう。
「まぁ、これはそのレベルでは収まらんが。
カイエルよ。ここはお前さんが行け。危険だったら俺が助けてやるが、力試しだ」
ドラケンはそのシークレットエリアの扉を、カイエルに言って開かせた。
そこは、まっすぐに道になっている。
その道沿いに、ともし火が壁に掛かっており、暗くはない。
が、その炎は青色である。
シークレットエリア。その道の炎の色で難易度が変わることを、ドラケンが知ることはない。
いや、此の世界、誰もその事実までたどり着いたものはいない。
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