第7話 マヨネーズアカツキ

 朝方。

 僕はどうすることもできないまま、マヨ子は帰ってこなかった。

 気になり、僕は無線機を使う。

 警察無線にマヨ子のことがないか、気になったのだ。

 だが、マヨ子の情報は流れてこない。

 少しの運動と言っていたけど、どこに行ったのさ。マヨ子。

 僕は身支度を整え、学校へ向かう。

 学校につくと周囲がざわめく。

「なんでマヨ子と一緒じゃないだよ」

 半家がギラつく目でこちらを睨む。

「え」

「最近、一緒にいることが多いだろ」

 言われて思った。確かにここ最近は一緒が多かった。

 校内でカップル認定されたときもあった。

 だからこそ、周囲がざわめきだっている。

「あの二人破局?」「まあ、マヨ子だし」「マヨネーズのことしか言わないしな」

「――っ!」

 マヨ子はそんな人じゃない。

 マヨ子は一途で真面目で勉強家で、ヒーローに憧れる美少女だ。

 彼女は素敵な子だ。みんなが思っているようなマヨオタクではない。

 まあ、確かに裸に硬化マヨネーズをトッピングしたり、お風呂に突撃したり、朝まで裸で隣に座ったりするけれども。

 それでもこの世界の平和について真剣に考える、僕にとってのヒーローだ。

 ケチャップ人のイタズラを捕まえることができたのも、違法マヨネーズに対抗できたのも、すべてマヨ子のお陰だ。

 しかし、その本人が現れないのだが。

 困ったな。

 ホームルームが始まり、先生がマヨ子の欠席を告げる。

 それで一層、どよめきが起きる。

「先生、マヨ子はどんな理由で欠席なのですか?」

 僕は思いきって聴いてみることにした。

「それに関しては教えられん。ちょうど良い、愛野あいの緋彩。あとで職員室に来い」

「え。わ、分かりました」

 何を言われるのだろうか。思い当たる節はない。


 僕が職員室のドアをノックすると、ゴクリと生唾を呑み込み、入る。

「よくきたな。愛野」

「呼び出したのは先生ですから」

「さっそくで悪いが、舞子まいこが欠席しているのは知っているだろう?」

「はい」

 それ関連で呼ばれたのか。しかし思い当たる節がない。

「今日、警察から呼び出されて、舞子が誘拐された形跡があったとある。何か知ってはいないかね?」

「え。マヨ子が誘拐!?」

 驚きのあまり声が大きくなる。

 だが、しかたないだろう。

 なんでマヨ子を誘拐したのさ。

 この間のマヨネーズ〝アカツキ〟工場にでも行ってみるか。

 それとも……。

「最近、舞子が愛野と付き合っていたのは知っている。だからなんでもいい。おかしいと思ったことを言ってくれ」

「おかしい?」

「ああ。それで解決できるかもしれない」

「なら、マヨネーズの味の差を存分に語ったり、マヨネーズの底にたまったものを絞り出す方法、マヨネーズを食べるときのオススメやマヨネーズの主成分に何を混ぜるとおいしいのか。マヨネーズのマヨネーズによるマヨネーズのためのマヨネーズを作るとか」

 その後もマヨ子のおかしいと思ったことを語る。

「分かった。もういい。先生が間違っていた」

「分かってくれましたか?」

「~~~~! まあ。なんとなくは」

 言葉を濁すように呟く羽鳥はとり先生。

「とりあえず、警察から助けを求める声があったそうだ。愛野も気をつけてくれ」

「……はい」

 どうやらとんでもないことに巻き込まれたらしい。

「でも僕たち付き合っていませんよ」

「へっ?」

 羽鳥先生の声がうわずっていった。

 その姿を見ずに僕は廊下を歩く。

 目指すは自分の家。

 警察無線で呼び出されなかった。今頃になって気がついたのか? それとも、別の理由が?

 分からない。

 だが、今僕にできることはこれしかない。

 鞄からあさりマヨネーズを取り出す。

 体育館裏でマヨネーズを一本、飲み干す。

 マヨネーズマンになると、聴覚を研ぎ澄ませる。硬化マヨネーズで翼を作り、飛び立つ。

 しかし、一体誰がマヨ子をさらったんだ。その目的は?

 気になることがふつふつと湧いては消えていく。

 耳に入った声に聞き覚えがあり、そこまで飛翔する。

「マヨ子。待っていろよ。そう時間はかかるまい」

『だから、ケチャップじゃ主成分が違うからお応えできないって!』

『そんなことを言ってあねさんをバカにしているのでしょう? マヨ子、いや舞子さん』

『そうじゃなか。ただ本当に――』

 僕は抵抗し続けるマヨ子の前に降り立つ。

「な、なんや、われ」「姉さんの邪魔をする気か? マヨネーズマン!」「こ、こいつがマヨネーズマン!」

 困惑する集団。

 後ろにはマヨ子がいる。正面にはケチャップ人が二十人ほど。

「マヨ子。無事か?」

「わたしは無事だけど、アカツキが盗まれたわ」

「それはそんなにマズいことなのか?」

「正しき者が使えば正義に、悪しき者が使えば悪意になるもの。それを渡してしまったの」

 なるほど。つまり刃物と一緒か。

 包丁がなければ料理は作れない。かといってそれで人が死ぬこともある、と。

 アカツキはそんな危険性を秘めているのか。

 なら、なぜ無償で僕を選んだ?

 きっと僕なら安心できると過大評価してくれたお陰だろう。

 不安そうに僕の袖を握るマヨ子。

 その仕草が可愛くてメロメロになりそうだが、今は目の前の敵だ。

「マヨネーズマン参上!」

 弱きを助け、強きをくじく。

 いや、弱いのはこいつらだ。心が弱いから集団で一人の女の子をさらう。そして追い詰める。

「マヨネーズネット!」

 手のひらから飛び出したマヨネーズは形を変え、蜘蛛の巣のように散る。

 そして敵を絡め取り、硬化していく。

「くそ。なんだこれ。はずれねー!」

 もがき苦しむ敵。

 だが、関係ない。

 僕は僕の大切な人を奪うのに怒りを覚えている。

 これ以上、大切な人は奪わせない。

 だから戦う。

 目の前にいる敵を捕らえる。

 刃物ナイフを取り出したチンピラAはこちらに突進してくる。

 マヨネーズをだし、硬化させる。

 マヨネーズソードだ。

 その刃物ナイフを受け止め、いなす。

「どうした。その程度の刃物では、この僕は倒せんぞ!」

 ソードの柄で頭を殴りつけ失神させる。

 気を失ったチンピラAを置き去りに、前に踏み出す。

 チンピラの幾人かはもう逃げ出している。

「このままじゃ、姉さんが!」

「姉さんねぇ。そいつがこれを指示したのか?」

 僕はマヨネーズネットで捕らえ、詰問する。

「いや、オレらは姉さんの力になりたくて、だからケチャップマンの誕生を望んでいる」

「ケチャップマン……!」

 そうか。強いリーダーシップがあればケチャップ人は助かる。みんなの聖女になろうとしている女だ。

 きっとリーダーシップに長けているのだろう。

 そうなれば、いさかいも減るのかもしれない。

 だが――、

「関係のないものを巻き込むな」

 僕はその男の前で前髪を切り落とす。

「ひっ! お、オレだって、望んでやったわけじゃねー。カツヤが!」

「カツヤ? 詳しく教えてもらおうか?」

「へ、へい」

 自分の立場を理解したのか、チンピラBはすらすらと事情を話してくれた。

 まずケチャップマンになりえる女だが、高校生の三年らしい。僕の一個上だ。その彼女はリーダーシップがありながらも、自分が頂点に立つのを否定している。だが、その兄・カツヤがケチャップマンになることを望み、この抗争が起こったそうだ。

 そんな中でどの企業も開発できていなかったアカツキの成分を分析しようと躍起やっきになっていた。

 そしてアカツキを作ったマヨ子をお迎えしようとしたのだ。

 だが、それに断固反対したのがマヨ子である。

 マヨ子はマヨネーズこそが至高と言い放ち、ケチャップを全否定した。

 だからこんなさびれた港で捕まっていたらしい。

 しかし問題はカツヤのようだ。その女子高生はあまり戦いたくはないらしい。

 でも、ケチャップマンとは共闘できないものか?

 そう考えるのは浅はかだろうか?

 分からない。

 でもやってみなければ何も分からないものでもある。

 僕はケチャップマンの登場に期待した。

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