第32話 マヨネーズ原発

 被災して三ヶ月。

 僕たちヒーローはまだその手を借りたいもので一杯だったが、限度がある。

 行方不明者の捜索などはまだできていない。

 そんな中、メガネくんと出会う機会があった。

「僕は、ゲーム作りを引退します。これまで迷惑をかけてすみませんでした」

 そう言い、木菱先輩と向き合う。

「ダメよ。私のプランにキミの手伝いは必須だよ」

「僕も、許せというのなら、態度で示すべきだと思うね」

「へ、てめーがやめようがかんけねーが、これ以上納期を遅らせるのもいやだね」

 半家も厳しい口調だが、メガネくんがやめるという選択肢がないと言っている。

「態度で示す。だからこそ、やめようと思うのですが?」

「それは逃げているだけでしょ。ちゃんと開発に関わってもらうよ」

「……分かりました。この斉藤さいとう良樹よしき。頑張らせてもらいます」

「いよ。メガネ君!」

 部活が普通に始まり、ゲームを作り始める。

 と、ぐらぐらと地面が揺れる。余震だ。大きいぞ。

 途中でスマホが鳴り響き、僕は慌てて外にでる。

「もしもし? マヨ子?」

『そうなの。今すぐに応援に来て欲しいと言われているの』

「分かった。すぐいく」

 僕は木菱先輩に話しかける。

「用事ができたので――」

「私も行く」

「へ?」

「私もケチャップマンよ。忘れたの?」

「そ、そうですよね。分かりました。行きましょう」

 僕と木菱先輩が部活を後にし、空を駆ける。

 マヨ子と合流する。

「なんで先輩と一緒なの?」

「いや、ケチャップマンもいた方が心強いから」

「そうよ。私はケチャップマンよ。緋彩の力になれるわ」

「むむむ。しょうがないの。今回の目的は港区にある原発の調査よ」

「原発? それなら防護服を着ないと」

「あら。緋彩くんは知らないようね。私たちの着ているヒーロー服は放射線をはじくのよ」

「そうなんだ。じゃあ、行ってくる」

「待ちなさい。壊れていると思ったところを報告するの? 大丈夫?」

「やってみるよ。できだけの力があるならできることをする」

「そうよ。私たち、ヒーローだもの」

 寂しそうにするマヨ子。

「わたしもいけたら良かったのに……」

 ぽつりと漏らす本音。

「行くよ。緋彩」

「はい!」

 僕と木菱先輩は飛び上がり、港区にある原発に向かう。

 すでに醤油マンが入っているのか、あたりは騒然としている。

 先ほどの余震の影響が出ているのか、入り口は封鎖されており、中に醤油マンの姿が見える。

「僕たちも入るので、入り口を開けてください」

「本当に大丈夫なのかね?」

 責任者が不安そうな顔でこちらを見る。

「大丈夫です。みなさんのために頑張ります」

 ここで原発が爆発でもすればこの味変は終わる。この町を守るにはそうするしかないのだ。

 入り口が開かれ、僕たちは調査を開始する。

 原発の中を歩くなんて、あり得ない話だと思っていた。

 制御棒が倒れ、ウランにぶつかっていた。

 ウランや制御棒を動かすクレーンが壊れている様子だ。

「どうする?」

 醤油マンとケチャップマンに訊ねる。

「クレーンを直すしかないんじゃない?」

「そうね。それも大切だけど、制御棒とウランを元通りにしないと最悪、核分裂よ」

 ゴクリと喉が鳴る。

 そんなに危険なのか。

「分かった。先にそっちをしよう」

「ええ。そうね」

「分かった」

 三人で制御棒とウランを元通りに直す。かなりの重さだったが、ヒーローになった僕たちには簡単な行為であった。

「ホントに大丈夫か?」

 醤油マンが不安そうに呟く。

「大丈夫だって、普通に触れるから」

 ウランを手で触ることの嫌悪か、醤油マンは震える手で触れていた。

 持ち上げ、元の位置に戻す。

 それから、次にクレーンを直していく。

「しかし緋彩は怖い物知らずだね」

 木菱先輩まで言う。

 額に浮いた脂汗を拭き取る木菱先輩。

 この状況に不安を覚えているのは歌恋だけじゃないらしい。

「直った。これでいいだろう」

 僕はそう呟くと、歌恋と木菱先輩を連れて原発を後にする。


 次の日の朝。

 僕は陽光に晒されて目を開ける。

 疲れが残っているのか、身体が重い。

 いや、馬乗りになっている人がいる。マヨ子だ。

「ふふ。ようやく起きたわね。さっそくご飯にしましょう?」

「いやいや、キミがのっているから動けないんだけど?」

「いいじゃない。少しくらい」

 そう言って降りるマヨ子。

「ふう。重かった」

「もう! 女の子に〝重い〟なんてサイテー」

 ブーブーと文句を言いながら、一階へ降りていくマヨ子。

 僕もそれに続き、朝食を食べる。

 フレンチトーストと、目玉焼き、サラダ、ミートボール、果物の盛り合わせだ。

「僕は米派なのに……」

「何か言った?」

 威圧するかのような口調に声をつむぐ。

 サラダにはマヨネーズをかけるマヨ子。

「待った。そこはケチャップでしょ?」

「いいや、醤油だね」

「なんで二人がいるのさ?」

 木菱先輩と歌恋を見やる。

「それなの。わたしも追い返したのに、ヒーローだからって押し入ってきたの」

「ちなみにその料理を作ったのは私よ。緋彩」

「そう、なんだ」

 てっきりマヨ子が作ってくれたと思っていたが、違うらしい。

 木菱先輩は料理もできるのか。意外な才能を発揮しているらしい。

 僕はサラダにマヨネーズをかけ、目玉焼きに醤油をかける。ミートボールにはケチャップをかける。

「これで満足だろ? さあ食べるぞ」

「ええ。そんなー!」「みんなの声を聴いた結果か」「もう。そういうところあるの」

 みんなの期待に応えた結果だ。

 悪く思うなよ。

 僕はそれぞれの味を試し、うまいと言う。

 みんなはブーブーと言うが、適材適所ということだ。


 朝支度を整えると、僕は学校へ向かって歩きだす。

「ふふ。ようやく一緒に登校できるね」

 木菱先輩が嬉しそうについてくる。その後ろにマヨ子がいる。

「あたしだけが、違う学校……」

 歌恋が不満そうに隣町へ向かうため、反対方向に向かう。

「じゃあね!」

「うん。また」

 僕は何げなく歌恋に返すと、高校に向かって歩き出す。

「今日はゲームの続きをしたいわね」

「そうだね。そうだ! 暇をみて作ったゲームがあるんです。みてくれます?」

「もちろんだとも! バグはあるのかな?」

「けっこうバグは取り除いたのですが……」

 まだ残っている。

 ゲーム作りはバグとの闘いでもある。

 たははと乾いた笑いが出てくる。

「もう! なに二人で楽しそうに話しているの!」

 苛立ちを露わにするマヨ子。

「じゃあ、ゲームを作れるのかい? マヨ子」

「むむむ!」

 マヨ子は口を閉ざし、変な顔をしている。

 不満はあるが、答えることができない。そう言いたげだ。

「じゃあ、わたしもゲーム部にはいるの」

「ゲーム部じゃないけどね。文芸部だよ」

「じゃあ、入るの!」

 マヨ子はテンションを上げて言うが、ゲーム作りは遊びじゃない。もはや仕事なのだ。それを知っているのか?

 怪訝な視線を向ける。

「難しいのは分かるの。でも緋彩くんと一緒にいたいの!」

 それは半分告白だ。

「あら。なんなら私も緋彩を譲るつもりなんてないけど?」

 木菱先輩も告白だぁ。

 困ったぞ。これでは二人に言い寄られるハーレムものじゃないか。

 でもな。

 マヨ子は幼いし、木菱先輩はあたりが強そうだし。

 困ったように笑っていると、校門を抜ける。

 自分の教室に向かうと、木菱先輩とは離ればなれになる。

「ねぇ。本当のところ、どうなの?」

 マヨ子が不安そうに訊ねてくる。

「いや、僕はまだ恋愛をできる大人じゃないって話」

「嘘つき。他の子と比べて緋彩は十分大人なの」

「そうかな。分からないよ」

 自分ではもっと子どもだと思っていたけど。

 どうなのだろう。

「けっ。朝から新婚気分ってか? 羨ましいねー」

 半家がそうつっかかてきた。

 うん。半家に比べれば、僕は大人だ。

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