第8話 マヨネーズハーフカロリー
「まったく、驚きました。マヨネーズマンが助けてくれるなんて!」
「いや、何のための平和維持なのさ。僕は平和を守っただけなんだからね」
「なんでツンデレっぽく言うの?」
う。いや、こうでも言っておかないと僕の思いがはち切れそうになるから。
惚れた弱みとでも言うのか。マヨ子を好きになってしまったらしい。
困った。
これからどうして会えばいいのやら。
そして、いつ伝えるべきなのか。
困り果てながらも、自宅へ帰る。
帰る頃にはすっかりマヨネーズマンから普通の緋彩に戻っていた。
「ボロボロじゃないか。早速、お風呂でも入って落ち着くべきだね」
「お風呂!」
マヨ子はお風呂好きで、マヨネーズ風呂が特に好きだ。今時、マヨネーズの入浴剤はコンビニでも売られている。ストックしている家も少なくはない。
が、僕の家には常備していない。
「コンビニ寄っていっていい?」
「え。う、うん。いいけど」
あまりボロボロじゃ、コンビニによるのも恥ずかしいか。なら僕一人でも。
「外で待っている?」
「ううん。わたしも一緒に行く」
ぎゅっと胸のあたりで拳を作るマヨ子。
そっか。さらわれたときの恐怖がまだ残っているのか。
なら――
「じゃあ、一緒に行こ、ね?」
「ありがとう」
僕が手を引き、コンビニの中につれていく。
「らっしゃいしゃせ」
やる気のないコンビニ店員だな。
横目で見て、僕はすぐに入浴剤のもとに行く。
「あった!」
自分でも驚くほど、はじけた声音で驚く。
マヨ子が無事だったこともあり、少々浮かれているのかもしれない。気をつけねば。
それにマヨ子の精神状態からして相当な恐怖だったのだろう。その点も踏まえて、危険は犯せないだろう。
「緋彩くん。これも買って」
「ん。いいよ」
かごに入ったのはハーフカロリーのマヨネーズ。
今更カロリーとか気にするのかな? まあ、女の子だしな。
そう納得すると、僕はレジに進む。
会計を終えると、僕たちは自宅に帰る。
ボロボロになったマヨ子を見て思う。
彼女はこんなになってでも話さなかった。それだけ重要なことなのだろう。あのアカツキというマヨネーズは。
しかし、それだけのもの。ケチャップ人がほしがるとは。
最近、マヨネーズマンとしての活躍が増えてきていたから、それに気がついた誰かがやったのだろう。
悔しい。
マヨ子を守れなかったのは僕の責任だ。
僕がしっかりしていれば、マヨ子に怖い思いをさせずにすんだのに。
自宅に戻ると入浴剤を使用したお風呂に入ってもらう。
「あー。もう!」
苛立ちを露わにするマヨ子が風呂場で嘆く。
本当の意味で彼女の気持ちに寄り添うことができる人はいないのかもしれない。
そう思いながらも、僕は風呂を提供する。
そして台所に立ち、料理を作り始める。
「緋彩くん――っ」
僕を呼ぶ声が聞こえる。
料理をいったん止めて、浴場へ向かう。
「どうしたの? マヨ子」
僕は更衣室に入る前に確認する。
「ボディソープがなくなったの」
「分かった」
僕は更衣室に入り、仰天する。
目の前には裸のマヨ子がいた。
「にししし。やっぱり引っかかった」
「な、なっ。な……!」
僕は驚き、目をそらし、ドアの向こうへ立ち去る。
「なんで、そんな格好しているのさ!」
「えぇ。緋彩くんが喜ぶと思ったのに……」
「もう、そんなことしないでよ!」
ドキドキした。本当にドキドキした!
まったく危ないことをする。
僕は結婚までそんなことはしないと誓ったのに。
「見ていいんだよ?」
「へ?」
マヨ子の本気らしい声音に驚き、目をパチパチさせる。
「わたしのこと、見ていいんだよ? それくらいの功績を得ているんだから」
「それって僕がマヨネーズマンだから?」
「そうよ。だから、マヨネーズマンには祝福をあげたいの」
「…………そっか」
僕がただのマヨネーズマンだから。
だからマヨ子は僕に甘いのだ。だから僕に甘い汁を与えるのだ。
そんなのは嫌だ。たまたま得た能力で人の心が変わるなんて。そんなのは嫌だ。実力で示したのならいいけど。
でも、僕が至らないから。
だから誰も僕の本当の姿を見ていない。そんなのは寂しい。そんなのは辛い。
僕は一人ではなにもできないのだろうか?
不安が波のように押し寄せてくる。
言い切った彼女の態度は変わらない。自分で言っている意味が分からないのかもしれない。
でも。でもなー。
僕はマヨネーズマンだから頑張るんじゃない。僕が僕だから頑張るのだ。
だから、だから?
だからなんだというんだ。
僕は僕のためにヒーロー活動を続けている。それを見ているマヨ子は何も分かっていない。
僕は……!
風呂場から立ち去り、マヨ子がなにか呟く。
「いけず……」
マヨ子の行為にはいつも驚かせる。でもそれもすべてマヨネーズマンのため。
僕はマヨネーズは好きだが、マヨネーズ人になったわけじゃない。
マヨネーズ派に組みいったつもりもない。
僕は一人でも行く。
一人でも世界を変えてみせる。
自室に戻り、警察無線を傍受する。
近くにいるチンピラを、この世界の秩序を乱す悪を捕まえるために、駆け出す。
世の混乱を整わせるために。
僕は今日も空を駆ける。
夜風が衣服にぴったとした汗を涼しく流す。
降り立つと、近くにケチャップ人がいる。
ケチャップでコンビニの窓ガラスを汚していく。
それを見つけた僕はマヨネーズネットを飛ばし、ケチャップ人を取り締まる。
――が、
「困るよ。うちのガラスを汚してくれちゃ。でも、ケチャップ人を逮捕してくれているからなー」
店長が困ったように頭をガジガジと掻く。
僕が飛ばしたマヨネーズネットは店のガラスにも飛び散っていたのだ。
これはミスだ。
せっかく活動を始めたばかりだというのにミスを犯すなんて。
もしかして、僕はとんでもない過ちを犯しているんじゃないか?
マヨネーズマンと言っても、結局は一人の人間だ。
みんな僕をマヨネーズマンとしか見てない。
一企業の一従業員であるのと同じように。
なら認めるしかないのか? この世界の歯車に成り果てることに。
そんなのは嫌だ。
みんな生きている必死で生きている。
ただの従業員でないと、示し続けている。
友と仲間とふれあい、自分とは違う道を歩んでいる者たちがいる。
彼らのようなオンリーワンになりたい。
いや、なって見せるのだ。
マヨ子がお風呂から上がり、ぽかぽかした様子でパジャマ姿を披露する。
「どう? 似合っているの」
マヨ子は水玉模様の水色のパジャマを着ている。
確かに似合っているが、ここは僕の家なんだぞ。分かっているのかな?
「ここ、僕の家」
片言になった僕を見て不思議に首をひねるマヨ子。
でも応えはするどいものだった。
「でも家に上げてくれたのは、緋彩くんじゃん」
「あ」
「それにお風呂を勧めたのも緋彩くんなの」
「あー。すみませんでした」
僕はその場で土下座をする。
「大丈夫だよ。わたしたちが何もなかったって言えばいいだけだし」
そんなの周りの野次馬の格好の餌だよ~。
涙目になりながら僕は立ち上がる。
「お腹空いたでしょ? 夕食にしよ?」
「そうなの。それ!」
「それ?」
何が言いたいか分からずに困惑する。
マヨ子がコンビニで買った袋をあさる。
「そう。これ!」
その手にはハーフカロリーのマヨネーズが握られていた。
「これで緋彩くんもマヨネーズが食べられるの!」
「へ。どういうこと?」
僕は困惑しながら、サラダやハンバーグ、白米を机に並べる。
「ハーフカロリー……つまりは健康志向ってこと?」
「ふふ。これはマヨネーズマンになるための成分も抜いてあるのよ。食べてみて」
ハーフカロリーをハンバーグに
「いいよ。食べてみる」
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