第2話 マヨネーズ製造!
僕はマヨ子に案内されるがまま、ビルの中へ入っていく。
そこにはマヨネーズ製造工場と、その研究室がある。
「ここでは黄金のマヨネーズを作っているの」
俺のさっきの飲んだマヨネーズを指さす。
これを飲むと一時的に身体能力が上がるらしい。とても面白く、危険な存在だ。
「これを飲むと誰でもマヨネーズマンになれるのか?」
「まさか。適合者にしか飲めないの」
マヨ子はぶんぶんと頭を振り、黄金マヨネーズを差し出してくる。
「ふふ。今度も大活躍しなさい」
マヨ子は誇らしげに言う。
なんでこんなにも誇らしげなのだろう。
「このマヨは、誰が作ったんだ?」
「! 勘のいいガキは嫌いだよ」
静まりかえる廊下。
「いやった! この言葉言いたかったの! あ。冗談だから。本当はわたしが主導で作っているの」
「へぇ~。すごいね」
ない胸を張るマヨ子。
しかし、マヨ子とはあまり話したことがない。どんな子だろう?
「マヨネーズは卵、酢、油の三つが重要になってくるの。他にも塩をいれるけど、基本はその三つ。これは製法や企業によって変わってくるから味のバランスも気をつけてなの」
「待て。その言い方だと、一般販売されているものでも、マヨネーズマンになれるのか?」
はて? と首をひねるマヨ子。
「そうだよ。だって合法マヨネーズだもの。黄金のマヨネーズアカツキはそのきっかけを生むだけのもの。キミは立派なマヨネーズマンなの」
合法マヨネーズだと!?
「それなら違法マヨネーズもあるかな?」
冗談交じりに訊ねてみる。
合法マヨネーズなんて仰々しい言い方をしているが実のところ騙されているんじゃないかと思いたくなる。
「あるわよ、違法マヨネーズ。そのためにあなたの協力が必要なの」
「え、僕?」
「そう! キミがキーパーソンになっているの」
僕がそんなに重要とも思えず怪訝な顔をする。
「マヨネーズマンがマヨネーズマン、たりうる存在だから。そんなキミだからこそ、マヨネーズマンの資格があるの」
何を言いたいのかわからずに首を傾げていると、マヨ子はキランと目を輝かせる。
「キミならできる。この世界に安寧と秩序をもたらすのよ。マヨネーズマン」
「僕が世界を変える?」
「そう、世界を変えるために生きるの」
世界を変える。それは仰々しいが、僕にとって憧れでもあった。
この世界はおかしい。
マヨネーズやケッチャップ、醤油などと調味料に固執し、前が見えなくなっている。
だから正す。
みなが共存できる道を模索する。
それが僕の願い、役目。
世界が平和であれと叫ぶには力がないと叶わない。
想いだけでも力だけでもダメなのだ。
だから僕は武器を手に取る。
そうして世界を救うんだ。
でもマヨネーズ派に加担するのはよくないような気がする。
どうしたらいいのかな?
分からない。
とりあえずは様子見でマヨネーズマンを名乗ろう。
「覚悟が決まった顔なの。なら餞別よ、持っていきなさい」
「うん、ありがとう」
ビニール袋を受け取り、中を見る。
とそこにはアカツキが入っていた。
「悪事を見つけたらそれで撃退してね!」
ビニールの底には大きな四角い箱がある。
「それは警察無線の傍受のための機械なの」
「犯罪じゃん」
「何を言っているの? わたしたちは協力者よ。警察もわたしたちの力を求めているの」
マヨ子は誇らしげに胸を張る。うすいけどね。
それを聞き届け、僕は閑静な住宅街を歩く。
トテトテとついてくる足音が耳に入る。
マヨ子だ。
ここまで追ってきたらしい。
「なんでついてくるのさ!」
「わたしたちはもう運命共同体。一緒にいるべきなの!」
「よくわからないから帰って」
「いやん。いけず」
色っぽい声音に脳がとろけそうになるが、僕はどうにか振り切り、自宅へ逃げ込む。
お父さんは仕事で夜遅くなる。
お母さんは、離婚し他の街で暮らしている。たまに会いに行くが、未だにネチネチと苦労話を喋る。
そんな関係がずっと続いている。
でもマヨ子はそんなことお構いなしに自宅へ上がろうとしてくる。
「なんで一緒なのさ」
「今晩の料理くらい作るの」
「僕は一人でできる」
目を丸くするマヨ子。
「ふふ、わたしにも料理ができるアピールをさせてくれないとは」
「あ。ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ」
「なら料理させてくれるよね?」
キラキラと光るマヨ子。
誰もいない家で友達が料理を作る。
いいのかな。これ。
分からないがとりあえず家にあげる。
「わー。マヨネーズマンの冷蔵庫って野菜が多いんだね」
玉ねぎ、人参、じゃがいも、ピーマン、キャベツ、レタスにきゅうりなどなど。
「週末に買い込んでいるからね」
「じゃあちゃちゃっと料理するの」
マヨ子が本気の顔を見せてくる。
その手付きは確かに料理人の手そのもの。
人参、玉ねぎを細かくみじん切りにしにんにくで炒める。白米と卵を炒め野菜と一緒に火を通す。
味付けは塩コショウ。
「できたの。チャーハン」
「おお! やるじゃないか。マヨ子」
「ふふん。わたしにだってこのくらい余裕のよっちゃんですの」
「僕はてっきり、ふんがのほいほいかと思った」
「何を言っているのか分からないけど、バカにされたのは伝わったの」
僕はスルーし、チャーハンに向き合う。
と、
「待って。これがないと完成じゃないの」
そう言ってマヨ子がチャーハンの上にマヨネーズでハートマークを描く。
ががんっと驚く僕。
せっかくおいしそうだったのにすべてがマヨネーズの味に染まってしまったのだ。
「はい。完成。食べてみて!」
「う、うん」
僕はスプーンでチャーハンを掬うと恐る恐る口に運ぶ。
うん。マヨネーズの味しかしない。
「どうしたの? おいしくない?」
「いやマヨネーズの味が濃くって」
僕はマヨネーズ人ではないのだ。だからマヨネーズの味だけではおいしく感じられない。
「え。うちではこれが普通の味なのに……」
ショックを受けた人がもう一人いた。
マヨ子のうちでは定番らしい。
が、僕のうちではマヨネーズ愛はそこまで深くない。
お互いのカルチャーショックに目を瞬くも、なんとかチャーハンを食べきった。
市販のマヨネーズでも効果はあるらしく、僕は再びマヨネーズマンになっていた。
アカツキは本当にきっかけに過ぎないようだった。
マヨ子はそのことを気にする様子もなく、僕が作ったゲームで遊んでいた。
「ふふ。このゲーム面白いの」
ゲームを褒めれて意気揚々と答える。
「まあ部活で作ったやつだけどね」
「同人誌を作る部活だっけ?」
「そう。表向きは文芸部だけど中身は同人誌や同人ゲームを作る部活だね」
実際、女子テニス部とかはおしゃべりが多く、あまりコートを使用していないらしい。
この学校はあまり部活に力を入れていないこともあって、遊び感覚が多い。
「いいなー。好きなことが見つけられて」
マヨ子は悲しげに呟く。
「マヨ子にはマヨネーズがあるでしょ?」
「そうね。わたしにはマヨネーズの研究・開発があるもの!」
キラキラに満ちたその横顔に僕は目を背ける。
なんだか自分が卑しいものになった気分だ。
いつもいつでもまっすぐに夢を追いかけている人は輝いて見えるものだ。
美しいのだ。
「綺麗だね」
「………………へっ?」
思わず言葉にしてしまった。
僕は慌てて付け足した。
「ほ、ほら。まっすぐに夢を追いかけている人ってかっこいいじゃん? だから僕はマヨ子が綺麗に見えて。だからそういった意味だけだから」
「うん。ありがと」
驚くほど冷静な答えにさらに顔が熱くなる。
まだ4月だというのに。入学してからそう経っていないというのに。暑いのだ。
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