第27話 ケチャップ分身
醤油マンの活躍と、一般の消防士が消火活動を行う。
僕は火炎放射器を使う男をマヨネーズビッドで追い詰める。
「いひひひ。やはりマヨネーズはよく焼ける」
「だからなんだ。お前も焼けるぞ」
マヨネーズネットを浴びた男は燃え広がるのもかまわず火炎放射器を使い続ける。
自身の身体についたマヨネーズに引火したようで、男は燃え上がる。
これで戦える者は一人減った。
しかし、偽ケチャップマンがこんなにいるなんて。それも武器を持って対立するなんて。
周囲を見渡すと、まだ偽ケチャップマンが闘っている。
僕はそれを倒すために走り出す。
「マヨネーズマンは下がれ、繰り返す。マヨネーズマンは下がれ」
拡声器で伝わってくる言葉に、僕は振り返る。
そこにはケチャップマンがいた。
「あの紋様……。力お兄ちゃん!」
「ふ。ようやくこのときがきたか」
「力お兄ちゃん。なんでこんなことをするのさ!」
みんな悲しいだけじゃないか。
「我々はマイノリティの解放にある。すべての人は等しくあるべきだ」
「それは、そうだけど……」
納得のいく答えが返ってきて困窮する。
でも、でもだからって。こんなやり方は間違っている。
「人をおとしめても、自分の価値は上がらない。悲しいだけだよ、この闘いは」
「なら、もっと多くの人に知らしめねばならぬ。悲しいということを」
「どういう意味……?」
訳も分からず、質問をする。
「まだ分からぬか。お前が見ている世界はちっぽけであったな。こうでもしないと、人類は闘いを繰り返す」
「そうじゃない。人は穏やかに平穏に暮らしたいだけだ!」
マヨネーズビッドを展開する。
「その力、俺の与えたもの。お前はどうしてマヨネーズマンになった?」
「守るため。人を、自分の大切な人を守るため」
「それでいい」
「え?」
「お前はそれでいいのだ。間違っているのはすべてを悪とし自分の価値観を相手に押しつける行為だ」
吐き捨てるように呟く力お兄ちゃん。
「貴様は違うのだな?」
「違う。価値観を押しつけるつもりなんてない」
「なら、それでいい」
何を。
何を求めているのだ。
何を信じているんだ。
分からない。
歌恋なら分かるかもしれないけど。
歌恋は醤油マンとして偽ケチャップマンと対峙している。
こっちに来る様子はない。
力お兄ちゃんが走り出す。その手にはケチャップ弾がある。
発射されたケチャップ弾をかわし、マヨネーズソードでその腕を狙う。
鈍い金属恩が響き渡り、エネルギーとエネルギーがぶつかり合う。
「間違っているよ。力お兄ちゃん」
「何も間違ってなどいない。この闘いはより多くの人間を巻き込む必要がある」
「何を!」
巻き込む必要なんてどこにもない。
「そんなのはダメだ!」
マヨネーズネットを放つが、すべてよけられる。
「多くの人間を巻き込むことで人々は覚醒する」
「か、く醒……?」
言っている意味が分からずに困惑していると、力お兄ちゃんの蹴りが横っ腹に突き刺さる。
「うぐっ」
漏れ出たうめき声。内臓がよじれるような痛み。
受け身をとるが、内臓の痛みは残っている。
「ぐっ」
僕は起き上がろうとするが、その場で崩れ落ちる。
「もう終わりだ。もっと強くなれ」
そう言い残し、力お兄ちゃんは姿をくらませる。
「ちょっと。大丈夫?」
歌恋が肩をつかみ揺らす。
「う、うん。なんとか。他のケチャップマンたちは?」
「撃退したよ。残りの残党がスイカツリーに集結している。一緒にこれる?」
「その前にマヨ子を。マヨネーズの補充が必要だ」
口から血が流れる。
「ちょっと。愛野くん……」
「大丈夫。まだ戦える」
マヨ子が駆け寄ってきて、マヨネーズを受け取る。
「無理しないでね」
マヨ子の潤んだ瞳。そんな顔をするな。僕はどこにも行かない。
「僕は大丈夫だから。マヨ子もそんな顔をしないでおくれ」
ポツポツと雨が降り始める。恵みの雨だ。
「さあ、ケチャップ人を抑え込むぞ」
「了解」
歌恋が続いて飛び立つ。
スイカツリーには百を超える人数が集まっていた。
「我々は我々を守るために闘う。闘わねば守れぬというなら、闘うしかないのです」
力お兄ちゃんがそう叫ぶと、うおーっと熱気を高めるケチャップ人。
「どうして。どうして人は闘うのかな」
僕が呟くと、その隣にいた歌恋が厳しい顔をする。
「闘う本能があるから。人は戦い続けるのだと思う」
「その本能を抑えることができるのが人間じゃないのか。ただ本能の赴くままに闘っていたらいずれ滅びる。それは歴史からも分かる」
人は。
「人はそんなにバカじゃないはず。話し合うことで、わかり合うことで平和への道は開けるはず」
そうだよ。
「そうだよ。こんなのおかしいよ。間違っているよ」
「でも、あたしたちには闘う他ない。それが正義と信じて」
「正義ってなんなのさ。僕には分からない。必要なのは自分のことを信じて闘うこと。そうだよ。自分の信念は間違っていない」
だから、闘う。
まだ終わりじゃない。
ケチャップマンを倒す。
それでこの闘いは終結を向かえる。
それでいい。
これからの時代はこれからの世代が切り開いてくれ。僕たちのことを、過去から学び、未来に活かすんだ。
マヨネーズを一気飲みし、マヨネーズマンとしてスイカツリーの上にいるケチャップマン、力お兄ちゃんに体当たりを食らわす。
「のわ。何をする。マヨネーズマン」
醤油キャノンがケチャップマンの腕を焦がす。
「ちっ。醤油マンまで!」
「降参しろ。命までは奪おうとは思わない」
僕がそう呼びかけると、下に集まっていた偽ケチャップマンたちがざわめく。
「おいおい。古参のヒーローが敵対しているぜ?」「そんな、ケチャップマンだってヒーローだろ? なんで闘うのさ?」「おれたちの希望の星を奪わせはしない!」
偽ケチャップマンたちが連携していく。
違う。違うんだ。
こんなのは間違っている。
「みたか。緋彩よ。これが民衆というものだ。みんな指導者を求めている。支配されることになれすぎている。なら虚像でも、なんでもリーダーが必要なのだ。支配されることに喜びさえ覚える」
「違う。人はそんなにバカじゃない」
「違わない! 人は自分で考えるのをやめて、自分勝手な価値観を他人に見いだす。勝手に期待して、勝手に文句を言う。そしてあまつさえ、他人の言葉を利用するのだ」
「そんなことはない。みんな自分の平和を求めているだけだ」
信じている。人は平和を求めているのだと。
「受取手は勝手に判断するものだ。あの人が言っていたから、こうだ! と。だから闘う。無責任な兵士よ」
クククと笑うケチャップマン。
「だから、自分は間違っていないと、自分は悪くない。悪いのは世界だと」
顔に手を当てるケチャップマン。
「だから嫌気がさしてくる。みんな自分の都合で闘っている。お前みたいに真実の愛のために闘うものはいない!」
そう言ってケチャップ弾を撃ち放つ。
僕はマヨネーズビッドで攻撃を防ぐと、マヨネーズネットを発射する。
だが、ケチャップマンは動かずにネットに包まれていく。
と、バシャッと水が落ちる音とともにケチャップマンがケチャップに変わる。
後ろにあったケチャップがケチャップマンに形を変える。
「分身の術!?」
驚きの声を上げるとともに、ケチャップマンは怒りの鉄槌を下す。ケチャップハンマーだ。
僕はそれをかわし、きっとにらみつける。
「僕はまだ終わっていない。力お兄ちゃん、あんたは間違っている」
「なんだと?」
「こんなやり方でまとめ上げるなんて、おかしい。みんな平和を求めていたじゃないか! それが今ではみんな自分から笑顔を取り除いている」
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