2

「襲われた、というのは」

「新聞沙汰にもなったわ。あれはそうね、労働争議が起こったのよ。流行に乗って」


 そう。

 少し前辺りから、労働者がこき使われすぎだ! それは人間としてどうのこうの、という思想や運動が出てきていたらしい。

 ただしそれを旗印に掲げているのは、良いご身分の人達だ。


「で、誰にそそのかされたのか知らないけれど、うちの会社の工場でも、そういうのが一部分居たのよ。ちなみにうちの工場の待遇は、周囲と比べれば良い方だと思うわ。少なくとも食べることに困らない。労働時間も昔よりずいぶん減らした。託児所もある。それに家も無料か格安で用意している。その待遇目当てにやってくる労働者もあるし」

「そうですね。彼等選べるなら選びたいでしょう」

「実際、夫も義弟も工場の雰囲気は良かったと言っていたわ。だからこそ、何故そんな一群が出来てしまったのか判らなかったのよ」


 そう。労働者達が力を合わせて何かしようとするには、普段の生活以上の力が必要だ。

 他社と比べて満足してたならば、わざわざ彼等がそんなことを起こす必要は無い。


「スパイが」

「そういうことね。入り込んで、中であることないこと吹き込んで不満をかきたてたの」

「それは他の国でもあります。工場とかでなくて、あくまでクーデターを起こす際の工作ですが」


 夫の赴任していた国では常にその危険があった。

 それこそ他国の干渉という大きなものから、後宮内に波乱を起こそうとするものまで。


「夫の赴任した藩国の後宮――妃達女だけが住むところなのですが、皆基本的に仲良くやっていました。そういう場所だ、と彼女達は納得していましたから。ですが時折、そういう者が出ました」

「仲良くは出来なかったということ?」

「夫から聞いていたのは、過去には単純な後継者争い。ただ私達が居た時に起きかかったのは、単なる寵愛と、寵愛から来る周囲の業者からの利益争いというところでしたね」

「利益?」

「当人としては寵愛を求めていただけのことだったそうですが、やはりその寵愛には贈り物とかの注文が増えますし」

「その寵愛を受けた夫人が政治に口をはさむことは?」

「政治の範囲によりますね。それぞれの妃を出した部族との覇権争いも政治と言えば政治ですし。ただままあ、そんな過去がありましたので、現在はその藩国では夫人の口出しは禁止されていますね。それでもたまに、自分の息子を次代の跡継ぎということで困ったことが水面下では起きたりしている様ですが」

「例えば?」

「妃自身がどう思っているかはともかく、親戚が王子を殺そうとするとか」

「目的のためには人殺しもやむを得ないという連中は何処にも居るという訳ね」


 その通りです、と私は答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る