3

 さっき、スパイが居た、って言ったでしょう?

 これがね、実家の伯爵家に昔から仕えている数少ない――私を外に働かせているのに、一方で使用人が居るってのも何だけど、家事をする使用人が、代々居たのよ。

 その使用人の子供が、社会主義思想にかぶれてしまっていたという訳。。

 思想にかぶれただけ、ならまあいいのよ。別に好きに活動すればいいわ。あれはあまり私達の国には極端なものは馴染まない。

 だって伝統とか君主制を否定するものだもの。

 そういうものに価値を置くところは多いのだから、無理にそれを壊したら大変なことになるのにね。

 とは言え、良いところは部分的に取り入れることは悪くないわ。

 でも根本は駄目。

 最終的には国家転覆につながるからね。

 だけど若気の至りってのがあるでしょう? 

 その使用人の息子がその若気の至りで過激派に染まってしまっていたのね。

 で、他に雇える程の財力も無いのに、昔からの恩を突きつけて、伯爵家は下の息子の過激派の活動自体を黙っている代わりに、その仲間でも何でも使って、私達の会社の工場に騒ぎを起こせ、とした訳よ。

 でも騒ぎというのは口実ね。

 要するに、アリッサ達をこの世から消したかったのよ。

 男爵家の直接的な関係者を減らしたかった訳。

 アリッサのところは子供も居たでしょう? 

 それもまた邪魔だったのよ。

 ああ思い出すと、また腸が煮えくり返りそう。

 そう、あと、男爵家の親戚の中でもみそっかすにさせてる雑魚。

 そういうのにその過激派に関わってる使用人の息子は話を持ちかけたのよ。

 男爵家の本家だけが美味しい汁をすすっている。悔しくはないのか、と。

 私達――特にお義父様の代では、きちんと使える人材なら親戚周囲にもちゃんと誘っていたわ。

 単に使える人材が少なかった、それだけなのよ。

 使えない人材を縁故だけで雇い入れたら、それこそ駄目でしょう? 

 信頼できる他人の方がよっぽど大事よ。

 ……とまあ、ちょっと横筋ずれてしまったけど、アリッサ達を殺した実行犯は使用人息子ではなかった訳よ。

 あくまで扇動しただけ。

 まだ生きてるわ。困ったことに!

 で、この使用人息子、扇動して騒ぎを大きくしてあんなことを起こした後、実家の指示で逃亡した訳。

 さあそこから。

 過激派に更に染まっていって、今度は組織的に私達の会社と私達一家を狙う様になってきた訳。

 過激派自体が、実家とは関係ないところで私達を目の敵にしだした訳よ。

 でも過激派のおおもと自体も、実のところ、「叩いてもいい」ところと「そうでないところ」は選別しているのよ。

 潰してしまったら不利益になるところは襲わない。

 伝統的なところを襲いまくると、今度は民衆が敵になりかねない。

 そういうところで新興企業だったうちは標的になりやすいということなんでしょうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る