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ただそれから少しごたごたしたわ。
何と言っても、実家がどうしても伯爵家から抜けるな! うちから嫁げ! ということだけは譲らなかったのね。
何故かあの両親が、男爵家からの、お祝い金とか養女に行くための費用とか、そういうものに一切目もくれなかったのよ。
人のいい男爵夫妻は、それでも愛情があるのか、という風にとったのね。
それで結局伯爵家の令嬢、という肩書きのまま、私はブルックス男爵家に嫁いだの。
それから三年がところは、本当に夢の様に楽しかったわ。
愛する夫、実の親より私を可愛がってくれる義父母、そして勉学にいそしみ私とも仲のいい義妹。
新婚旅行のために、この路線を義父は買い取ってくれたの。
だからこの列車には昔一度乗ったことがあるの。
この一往復、当時はまだ少し今より遅かったから、三週間ほどのんびりと旅してきたわ。
まだ東の国も、今ほど知られていなかった頃ね。私は向こうの珍しい織物や香料とかが気に入って、仕入れたらどうか、とか言う話も出したわ。
実際それから、この線がブルックスの所有なのだし、ということで、貨物線も出す様になって、更にうちの事業は大きくなっていったのよ。
ただ、なかなか子供ができなかったのが私達の心配の種だったのね。
私達はとても仲が良かったから。
なのにどうして、と楽しいのに不安になることがしばしば。
でもその不安がそれまでよりもの凄くなった時、私の妊娠が判ったの。
結婚してて二年半ってところかしら。
これが幸福の絶頂期というところね。
無論その後も幸せは続いたけれど、この時ほどではないというのがちょっと悲しいわ。
そう、今も子供は居ない。その時の子供は流れてしまったの。
しかもそれは、ほんのちょっとした事故からだったのよ。
医者に行くために馬車に揺られていったら、たまたまその日の馬が、唐突に暴れ出したの。
暴走する馬車を、どうにかして御者も止めようとしたのよ。
だけど一体どうしたことか、馬は荒れ狂って、がたがたした道を疾走したのよ。
私はその時、いつもからは信じられない揺れで、大きく身体を弾ませて、床にひっくり返ってしまったの。
そしてそのまま街の医者まで行った訳だけど。
御者が扉を開けてみると、私が倒れていて、周囲には血が広がっているじゃないの。
慌てて御者は行き先だった医者の先生を呼んできたのだけど、その時はもう遅くて。
私が三日寝込んで目を覚ました時には、既にお腹の子は駄目になっていたわ。
それだけじゃないの。
その時の措置が遅かったせいで、その後子供ができない身体になってしまったのよ。
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