男爵未亡人は語る(2)
1
さて何処までお話したかしら。
そうそう、私が家庭教師になった辺りね。
私が教えることになったのは、彼のちょっと歳の離れた妹。彼は既に大学に通っていたからね。
彼の妹のアリッサはその時八歳だから、十歳違ったということね。あの彼女が二年前に結婚したんですもの。
結構な時間を私もあの屋敷で過ごしたものだわ。
今?
そうね。
夫が亡くなって、義妹が嫁いで、私がこうやって旅に出ている訳でしょう?
それだとあまりにもあの家は広すぎて。
だから家族はもう住んでいないのよ。
最近は事業の方でも従業員の待遇とか色々言われているでしょう?
男爵家は成り上がりだし、私の家は裕福とは言いがたかったし。
だからちょっとでも従業員の人達が豊かな気持ちになれるといいかしら、ということで、家は今ホテルにしているの。
従業員であれば、誰でも年一回は宿泊する機会が得られるという、ね。
一般のお客からはそれなりにいただくのよ。
一家総出で都会に出てくる方々が一週間とか泊まるのにちょうどいい、ということで。
従業員――そうね。行く余裕がある時にかわりばんこにいらっしゃい、ということにしているのよ。
それこそ工場で働く一家、でも。
一晩の宿と、美味しい食事。生活に夢を持つためには、具体的な目標が必要と私、思うのよね。
だからホテルの方でも、どんな宿泊者にも同じ態度を取るように、と言ってあるの。
ただ、大口客が来る時には、かち合わない様にしているわ。
待遇は一緒よ。
ただ、お互いに嫌な思いをすることが多いでしょう?
この列車だってそう。
特等から四等まであるわ。
特等に普段乗るお客は四等、いえ三等だって長時間は無理でしょうね。
その一方で、四等に乗る様なひとは、特等や一等に乗る人々に気後れしてしまう。
ふかふかのベッドや豪華な食事があったとしても、きっと気持ちがもの凄く疲れてしまうでしょうね。
四等。そう、この列車には四等まであるわ。
三等までが地方間列車では一般的よね。
だけどここは、貨物車に窓をつけただけの場所があるのよ。
お金は無い。
本当に少ししかない。
だけど遠くまで行きたい、という人、大荷物を自分で運んで行きたいひと、荷車を一緒に乗せていきたいというひとも居るわね。
馬車? そういうひとはそもそも馬車で行くでしょう?
それに、馬車で行けない程の距離に行きたい人達は、向こうでまた馬車を調達するでしょうね。
環境が違うのだから、その場に合った馬を用意する方がいいのよ。
ただそれでも、一応三等との間にトイレと洗面所、給湯室はあるのよ。
そしてそこでお湯を手に入れて、持ち込んだもので食事をするのね。
小さな折り畳み椅子を持ち込む学生も居れば、敷物を広げて寝そべっているひともいる。
場所が確保されはしないけど、人によっては、三等より好き勝手な格好ができて楽というひとも居るようね。
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