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目の前に居る精鋭は、屈強で大柄な男性七人。
中肉中背の男性が二人、小柄な男性一人、それにたっぷりとした身体の中年女性と、小柄で眼鏡の女性が一人ずつ。
「基本的に退役軍人から我が社のガードのために雇い入れた人材よ。まあこの二人は違うけど。何か疑問が?」
くすくす、とアイリーンは笑う。
「まあ仕方ありませんがねえ」
「でも嬢ちゃんも暗殺者なんだろ?」
女性二人はそう言って身体を揺らした。
「……まあ…… もうずいぶん離れてますが……」
「皆そういうもんさ。ただ、呼ばれればその腕を使うのに容赦は無い。なあ、そうだろう?!」
おうっ! と野太い男達の声がする。
どうやらこの集団を率いているのはこのたぷりとした女性の様だった。
「あたしはオリガ・アレクセイヴナ・サロノヴァ。名前で呼んでくれ。もう少し北の大地から逃げ出したところをスカウトされた。指揮官兼砲手だ。こっちはイコローン。この娘は狙撃手だ」
小柄な女性は、室内であるにも関わらず、頭を帽子で隠していることから、今走っている付近の出身なのだろう。
男達も次々と自己紹介する。
近接戦闘が得意な者、銃を中心とした中距離、そして遠距離や計測。少ないながらも、それぞれ役割が決まっている様だった。
「あんたに一番近いのは、彼だね」
中肉中背の一人が引き出された。
確かに。服の下に何かしら暗器を隠しているのが判る。
「一戦お願いしてよいだろうか? エドワーズ夫人」
彼は私に向かってそう言った。
「メイリンです。ええ、是非に」
正体がわかってしまったならば、協力を仰ぐしかないだろう。
それに、アイリーンは敵に回したくない。
今までずっと、同じ部屋に居てそう思った。
通常ならここで一般乗客に知らせない様に武器倉庫にするならば、二等車だろうに!
なのに惜しげ無く特等を倉庫、部隊を一等、そして自身は二等に紛れるときた。
いや、そもそも私があの場でなかなか切符が取れないこと自体も計算の上だったのだろう。
私はこの外見から時々駅で「切符は無いよ」と言われることがある。
エドワーズの身分証明を見せて、ようやく信用して売ってくれるということが多かった。
夫はそれに対して憤慨していたが、それは仕方がない。
私の外見は、どう転んでも東の国のそれなのだ。
黄味がかった肌、重そうな黒髪、それにやはり、各地の訛りが抜けきらない。
東の国からの移民の街の元締めに相談すればすぐに切符は取れる、ということも耳にはしているが、私はそちらには関わらない様にしている。
あくまで私はこの国の大使の夫人なのだ。今は。
だがその「今」より、過去の力の方が問われているらしい。
「ではちょっと場所を変えましょうか」
アイリーンは特等の最前、展望室へと移動する様に言った。
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