3

 展望室はこの列車の中で最も見晴らしの良いサロンカーとして遣われている場所だった。

 十人強が襲撃に使える武器兵器がもう片方の車両に集められており、その場は広く開けられていた。

 その床の真ん中に大きな円、そして星座が描かれている。


「ここから出た方が負け、ということで」


 アイリーンはシンプルなルールを説明した。

 私と相手の男は、五歩くらい離れた場所で向き合った。


「レディック・オルセンだ。宜しく」

「メイリン・エドワーズですわ」


 言うが早く、私は自身のスカートを巻き上げ、ガーターベルトに装着していた細い串を指に挟む。

 向こうは向こうで足元にうずくまり、私の足を払おうとする。

 飛び上がる。

 串を一本ずつ間隔を開けて打ち込む。

 オルセンは転がる。

 だが星座盤のラインぎりぎりで逆立ちからの一回転をして体勢を変える。

 私はペチコートのスナップを外すと、闘牛士の様にひらりと相手の前に流した。

 ひゅう、と周囲の男の口笛が聞こえた。

 何度かひらりひらりとそれを右手で流しながら、左手で右手首に仕込んでいた一回り小さな串を投げて行く。


「……と!」


 軽いが、間断無い攻撃に男はよろけた。

 そこへペチコートを投げつけ、突進する。

 が。


「いやいやそう簡単には倒れないんだよ」


 通常なら体当たりでバランスを崩す辺りを点いたはずだった。

 だが相手の筋肉は、今まで感じたことの無い程強靱なものだった。びくともしない。


「お返しだ!」 


 彼はペチコートを掴むと、私ごと振り回そうとした。

 宙を舞う。

 だがそうなったら体勢は逆に変えられる。

 私は天井に一度蹴りを入れると、そのまま重力をも利用して相手にぶつかっていった。


「そこまで!」


 ぱんぱんぱん、とオリガが分厚い手のひらを叩いた。

 どちらもラインを越えていた。


「身が軽いな、奥さん」

「昔ほどでは無いですわ。子供を産んでいますし。そちらこそ、素晴らしい足の筋肉ですこと」


 そう言って私達はがっしりと握手をした。

 強い使い手に対しては、敬意を払う。

 それは私も忘れてはいなかった。


「しかしまあ、ペチコートをよく使うねえ」

「この国の服でしたらどうしてもそうなってしまいます。東の国や砂漠の国ならば、元々の衣服がゆったりしたものであるので、暗器を隠しやすいのですが、やはりどうしても今のドレスではこうなってしまいますわね」

「コルセットは邪魔だし」


 狙撃手の女、イコローンは小柄な身体に、コルセットを使わない、少女服の様なものを身につけていた。


「あれはあれで、使い様がありますよ。鯨骨や針金が入りますから、いざという時には解体して」

「そういう話の方が、メイリン貴女、生き生きしているわ」


 アイリーンはそういうと、ころころと笑った。

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