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「奥方の」
「ええ。『美しいもの』を集めるのがお好きな方で。それが宝石であれ、自国には無い織物や刺繍や絨毯であれ、そして人間の子供も」
アイリーンはお茶を口にしつつ、微妙にうなづく。
「そして奥様は、しばらくはお手元において可愛がってくれました。可愛い東の国のお人形よ、とばかりに。ただ飽きやすい方ではあったので、やがて私が子供らしくなくなってくると、仕事を教えさせる様に、と大人達の方へと回されました」
「飽きやすい、なんて……」
「別にそれは構いませんでした。お人形であった頃、奥様の気まぐれでちゃんと言葉を教えていただきましたし、屋敷のある国の風習も教えていただきました」
ただその後に回された仕事に関しては。
「私は大人に交じって、次第に仕事を覚えていきました」
「その時には、周囲から何もされなかったの? 異国の娘、ということでは」
「いえ、私が回された仕事の場には、旦那様や奥様が集めた様々な国から来た者達ばかりでしたので、皆似た様な境遇でしたので、その点では。顔立ちと、真っ直ぐな髪が東の国特有で珍しいとは言われましたが」
「そこで仕事をしばらくやっていたということね」
「はい」
実際、本当にそこに居た者達は様々な国、様々な部族の出だった。
手先が器用な者は、それに応じた仕事
を。そうでない者は、また別の能力に応じた仕事を。
教えてくれる側も、学ぶ側も必死だった。
いつ、何処で必要とされるかは判らなかったからだ。
「それで私も、成長するにつれてそれなりに仕事をこなす様になって行きました」
「外に出ることはあったの? 逃げようとかは」
「それは全く考えませんでした。仕事がきちんと出来さえすれば、私はちゃんと食事も摂れたし、仕事によっては外に出ることもできましたし。……無論結婚してから知った自由とは比べものになりませんが、それでも故郷に居た頃の、食えるか食えないかの状態に比べれば夢の様な暮らしでした」
「そうね…… まずは食べることが一番よね。全てはそれからよ」
しみじみとアイリーンは言う。
そしてカップを置くと。
「どんな仕事であれ、きちんと食事をくれる場所であったのは良かったわね」
「ええ。色んなことを教えてもらいましたし。おかげで夫が後で色んな国の言語を教えてくれた時も、学ぶのが上手いね、と褒められました」
そう。この「学ぶ能力」というものが、あると無いでは私の居た場所では確実に待遇と、何より生死が分けられていたのだ。
「でも、その職場は貴女を買い取った訳でしょう? どうやって今の旦那様と結婚が認められたの?」
「それは」
私はつじつまの合う言葉を探す。
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