十日目の発車準備中の一等車両にて

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「本当にこのたびはお世話になりました」


 私はそういう夫と共に、アイリーンに頭を下げる。

 夫を無事救出し、なんだかんだで合流は終着駅になった訳だが、アイリーンはこの折り返しの列車の特等と一等は我々のために用意してくれた。

 二等車両は東から西へと向かう乗客を入れ賑わい、それまでの雰囲気とは異なっている。

 特等と一等には、私達夫婦と、アイリーンの私兵部隊、そして我々の様々な「荷物」が積み込まれている。

 とりわけ特等には、この一連の騒動で消費された武器の代わりに、捕縛した過激派と様々な彼等の活動の証拠品がきっちり保管されている。

 過激派人員は豪華な檻の中で絶対逃げられない様に、一人一人檻の中に入れた上の監視つきだ。

 総勢三十名ほど。


 私達は現地で彼等を取り押さえると、調達した幌馬車の様なものに押し込んだ。

 そして前後にも馬車をつけ、間に合う様に走りに走らせた。

 食料も水も現地調達、広大な大地を交代で休み、殆ど休憩無しで急がせた。

 この時やはり電信が役立った。

 ポイントポイントに配置されていた会社の情報員や、軍の情報部が連絡を受けると先に馬を交換したり、物資を補充してくれたのだ。

 私の子供の頃とは本当に変わり、便利になったな、としみじみと感じた。

 その一方で、私が暗殺者として使えたのは、この技術がまだ発達しきっていなかったからだ、と気付いた。

 過激派を捕まえた、直接の強襲劇に関しては、さして物語ることは無い。

 夫が捕らえられていた場所は、アイリーンの私兵部隊の更に配下の情報部隊が既に察知していた。

 私達はその地点に乗り込み、武器持ちの奴等を殺さない程度に確保。

 証拠物件もろもろは合流した情報部隊が積み込んでくれていた。


 なお、私が同行した理由は、暗殺者としての腕を買って、というよりは、まず首実検できる最大の人物ということだった。

 たまたまそれが暗殺者という手練れであった、というべきか。


 とは言え、私が「それ」であったことから彼が狙われた訳だから、それが良いのかどうなのか。

 だが夫が「エドワーズ大使」本人であるかを実証する証人というのは、実は案外人選が難しいのだ、とアイリーンは言っていた。

 どれだけ有能な情報部隊でも、写真と特徴だけでは「それらしい」身代わりが言い張ったなら肯定も否定もできないのだ。

 絶対に「このひとです!」と言い切れるのは、命を賭けて夫を助けるべく活動していた私だ、ということになると。

 だがそれを考えると、私は一つ、思うことがあった。

 そして挨拶の後、私はアイリーンに、一つ相談してみたいことがあった。


「私は夫と離婚した方がいいのではないでしょうか」

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