二日目の朝食の食堂車にて
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翌朝、洗面所で顔を洗い、口をすすぐ。
昨晩はお茶と届けてもらった卵とキュウリのサンドウィッチで軽く済ませた。
さすがに慣れない列車の旅の始まりは、話を聞いているだけでもだんだん疲れてきたのだ。
ブルックス未亡人アイリーンは、まだ寝床の中だった。
昨日はやや興奮気味だったということもある。
話すということは案外頭を使うことだ。
特に自分自身にあったことを語る場合は。
私にしたところで、自分がどうやって今の夫と出会ったのか、結婚するまでの苦労とか、そんなことを語り出したら相当頭を使うと思う。
何処まで話したものなのかも迷うだろう。
しかも彼女の場合は、「長い話」と前置きしているし、なおかつさりげなく「戻らない旅」なんて聞こえるか聞こえないかの声でつぶやいている。
髪を整えるのは個室に戻ってからだ。
ずっと座ってばかりでは足がむくみそうだから、時々車内を移動する必要もある。
そう、確か、今日は途中少し長めの停車駅があるのではなかったか。
「おはようございます」
「おはようございます」
個室の戸を開けると、アイリーンは既に髪を整えていた。
顔も、洗面所ではなく、既に洗面器と湯を用意してくれる様に手配してあったらしい。
「私もその方法にすれば良かったかしら」
「とっても楽よ。共同の洗面所はやはり少し、急かされるもの」
そしてしばらく髪を結う作業に入る。
私の髪は黒く真っ直ぐで、なおかつ太く硬いのか、結い上げるとすぐに落ちてきてしまう。
仕方がないので常には太い三つ編みを作り、後ろでネットをかぶせている。
それに比べると、アイリーンの髪はどんくな流行の髪型でも自由自在にできそうな程の腰とハリを持っている。
それでも当人は、今日も今日とて、黒い服にヴェールのついたボンネットを用意している。
「朝食はどうなさる? 昨晩は運ばせたけど」
「食堂車に行きましょうか」
さっとその場で私達は決定した。
*
食堂車は案外空いていた。
日が直接差し込むのを避けた席に付くと、朝食のメニューが差し出される。
大麦の粥にゆで卵、トマト風味の野菜のスープといったあっさりしたものが運ばれてきた。
食後にはお茶と果物が入れ替わりで運ばれてきた。
熱いお茶にはジャムやクリームが別皿で添えられている。
「ジャムを添えるのは、この辺りの習慣かしらね」
彼女はその酸味に顔を少ししかめた。
「でもジャム自体はとても甘いですわ。夫と一緒に以前この辺りの国に居た時には、よくジャムを舐めながらすすったものですのよ」
「あちこちの国にいらしていらっしゃるのですのね」
彼女はようやく私の側にも興味を抱いた様だった。
「ええ」
「それで、東の国の何処のご出身なのかしら?」
「これから行く国の方です」
そう、今夫が赴任しているのは、私の故郷の国だった。
夫は私を妻にしたことで親族から見放された様な形になっている。
「貴女も苦労なさってきたのね」
彼女は言った。
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