3
そして今は三日目の夕方。
それまではは森や山の緑や、遠くの残っている雪などが見えていた車窓の向こうが黄色い大地に変わってきた。
窓を開けると細かい砂埃が煙に混じって入ってくる。
「広いわ!」
アイリーンはトンネルを出たある瞬間、一気に開けた景色に目を見張っていた。
「珍しいですか?」
「珍しいわよ! 今まで通ってきたところでも、相当広々としてはいたけど、これだけ何も無いところは…… ちょっと感動するわ」
「そうは言っても、これを何時間も見ていると、なかなか飽きますよ」
「そう?」
「遠くの景色がまるで変わらないでしょう?」
そう。
遠く、更に遠くにある山々が微かに見える程度の平原。
遠すぎる山々は、ここを多少動いたからと言って、そうそう見えなくなることもない。
「ですから私はしばらく読書の時間にします」
「本を持ってきていたの?」
「ええ、数冊は。元々アイリーンとお喋りをする予定も無かった訳ですし、私はきっと暇を持て余すと思って」
「まあメイリン、それは私はお邪魔だったという訳かしら?」
「そんなことはありませんよ。暇だから本は読む訳です。今回の旅は暇を感じる余裕も無いくらいです。それに、一人で居たら、きっと夫の身体のことを悶々と思ってしまうのではないかと」
「そう…… だったわね」
急病だという「知らせが入ったから、飛び出してきたのだ。
私が考えてしまうのは、まずこの「急病」ということ自体の真偽だ。
夫が現在赴任している東の国は、非常に大きな古い帝国ではあるのだが、近年ずいぶんと国力を落としている。
無論首府に宮廷が存在するのだが、それとは別に地方のあちこちに軍閥が出来つつあるらしい。
夫は帝国と直接関わり合っているらしいが、そこで何をしているのかまでは私には判らない。
それでも私には判ることがある。
あの国の雰囲気、民衆の気質、そして風土。
私が生まれ育った地は首府よりやや北西の、冬には凍り付くような土地だった。
広い帝国なので、色んな環境、色んな文化を持つ土地があるのだが、とりあえず私の故郷は首府のそれに近い。
だからあの首府に陣取っている人々の雰囲気は判る。
とりあえず出された額面通りに物事が起こっていると考えてはいけない。
病気と言われたなら、既に死んでいる、ということもあり得る土地柄なのだ。
鉄道のおかげで知らせはずいぶんと早くはなった。
場所によっては電信も可能だ。
だがわざわざ身体を運ばなくてはならない事態というのは。
「どうしたの? 浮かない顔して。そんなに旦那様の様態は悪いということ?」
「あ、いえ……」
私は言葉に詰まる。
「悪いのかどうか、……行ってみないと判らないのです」
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