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 集めつつも、それでもあまり大きな出来事は、それからは無かったの。

 たぶんまず、それが一番の実家の気がかりだったんだと思うわ。

 私が子供を産めない身体になってしまった、となればしばらくは静観、ということだったのね。

 だから具体的な証拠とか出てくる訳でもなく、実家を責める訳にもいかず。

 ただ仕事が忙しいから、と疎遠にはしていたわ。実際忙しかったし。

 経営学はやっぱり学んで良かったと思うの。何と言っても、夫と共に同じ夢を見られるというのはとても楽しかったのよ。

 それに、それからしばらくしてまた嬉しいことがあったのよ。

 長いこと研究室に籠もっていたアリッサがようやく論文を書いて発表して認められて。

 そして同じ研究室の仲間だったひとと結婚することになったの。

 相手は郷紳の三男坊。

 後を継ぐより自分で身を立てるために学問に熱心になったんですって。

 元々はアリッサにとっては指導先輩だったのよ。

 女子が入ってくるのは初めてだったことから、周囲の嫌がらせでその役が当てられたんですって。

 何故嫌がらせって? 

 彼が地方の出で、入学が遅かったから、というのが周囲の言い分だったらしいわ。

 でも入った年齢はともかく、同じ学年では最も優秀だったのよ。

 アリッサは彼を実家の事業の方に紹介したわ。

 新たな石鹸類の研究チームに是非入れて欲しい、ってお義父様にお願いしたの。彼の研究成果をきちんと見せてね。

 だけどまあ彼もがんこなもので。後輩のコネで職を得るなんて! ってもう大変。

 そうしたら、アリッサは思いっきり彼に雷を落としたのよ。

 研究がいつまでも親から出る金とか奨学金とかでできると思ってるのか、研究で稼ぐことの何が悪いのか、結果として沢山の人々のためになるのが予想できないのか等々。

 こういうところは、研究バカではないアリッサの勝ちなのよね。

 あの子はちゃんと社交もできる上での勉学なのだから。

 すると確かに、と彼は考えてくれたというの。

「確かによく考えてみたら、自活できる様に学問に取り組んだのだから、良い職場がぜひ自分を、というならば、進んでみる価値はあるのかもしれない」

 ということで見事に事業の方に取り込むことに成功して。

 まあ要するに、その頃は既に、雷を落とせる程には仲が良かったのよ。男と女、という色気のある感じではなかったけどね。

 ただその色気の無さが、お義父様にもお義母様にも気に入られたのよ。

 やっぱりアリッサにやってくる縁談はまずこの家の金目当てでしょう?

 そんな中、縁故採用は嫌だ、と言い出す彼が新鮮だったそうよ。

 結婚式はうちうちでやったわ。

 住まいは職場の方に近いところに、小さな家を建てたの。

 もっと大きくてもいいじゃないか、とお義父様はおっしゃったんだけど、二人とも家庭生活には疎いし、大半の時間を会社の研究室に居るから、食べて寝ることができる程度でいい、って。

 食事も会社の食堂で三食摂るのよ! 

 アリッサはお嬢様だけど、そちらには向いていなかったみたいね。

 私の大好きな義妹だったわ。 

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