三日目の夕方の停車駅にて

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 これで停車駅は四つ目だ。

 昨日は昼頃、乗客の入れ替わりが激しい北の大国の首都だった。ここからがこの列車の本腰の入るところだ。

 北の大国に下りる人々も多ければ、これから東に向かうべく乗り込む人々も多い。

 特に、四等には大量の客が乗り込んできた。


「詰め込んでいますね」


 窓から身を乗り出して私達はその様子を眺めていた。

 確かにアイリーンの言った通り、ホームに下りて何やかんややっていると、人混みに押されてしまいそうだった。

 二等客車にも多少の入れ替わりがあった。

 それと同時に、掃除人がざっと入ってきて、シーツを交換したり、床を掃いたりしていた。

 三等ならそれで終わりだ。

 二等ではテーブルが出るので、それを拭いたり、ポットの回収もある。

 三等の場合は、椅子とベッドの区別がない。

 乗客はずっとベッドに座っているということになる。しかも上下段。

 私達は二等で最高二人までの個室なのだが、三等は上下左右で四人。一室の広さは同じだ。


「だけどこの列車はまだ良い方なのよ。鉄道会社によっては、三等一室に六人詰め込んだりもする様だし」


 アイリーンはそう言った。


「詳しいですね」

「まあね」


 どう詳しいのか、と聞こうと思ったが。


「ジャム入りピローグ~ クッキーは如何ですか~」


と少年の高い声に腕を大きく振りだしてしまったので、それ以上は聞けなかった。


「結構大きいわね」



 ジャム入りのピローグを二つと、クッキーを一袋買うと、早速お茶を、と彼女は自分の荷を開く。


「揚げ菓子に合うお茶は、と」

「色んなお茶を持ってきているんですね」

「ええ。うちでは色んなお茶も扱っていたから。どんなお菓子に合うのか、というのも結構皆で探したものよ」


 ね、と言いながら彼女は小さな缶をいくつか取り出す。

 小さな色とりどりの、丸い蓋のついた缶はそれだけでも可愛らしい。

 それが赤、黄色、薄緑、クリーム色、水色、紺、臙脂、ピンクと次々とテーブルに置かれる。


「向こうに着いてからは、まあ何かしらあるでしょうけど、時々故郷のものが欲しくなることがあるでしょうから、ちょっとずつね」


 そうして私達は軽い昼食代わりにジャム入りピローグとクッキーをつまんだ。

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