5

 ……あら、どうしたの? カップが揺れているわ。

 そう、情報部。

 貴方の旦那様も確か、そちらに属していたことがあったんじゃなくて?

 今は大使だけど、必ずしもそちらとの関係を切ったという訳ではないと思うのね。

 どうかしら。果たして北の帝国の過激派との関係を大使は掴んでいたのかしら。

 さてここで幾つかの仮定をしてみましょうか。

 貴女の旦那様が、それを知らなかった場合。

 これは単純ね。貴女はただ単純に急病の知らせを受けてこうやって走っている。

 だけどそれを知っていた場合。

 本国から遠く遠く離れて、そう簡単に連絡が取れない――

 電信はあるけど、それは深くも長くも伝えることはできない。

 そしてなおかつ、伝えてまずいことは伝えられない。

 電信は手紙と違って、中身そのものが見られることが前提なのだから。

 無論、知っていたからと言って、何かが起こるとも限らない。でも起こっているのかもしれない。何せ貴女の旦那様の任地は、場所は、向こうの過激派の本拠に近い場所。

 さてそこで、エドワーズ大使は今どうしているのか? よね。

 私ね、本当に急病、ではないとにらんでいるのよ。

 どうしてって? 

 だって、貴女が私の話をじっっくり聞いて興味まで持ってくれているから。

 だって、本当に夫が、特に貴女の話を聞く限りでは、貴女の夫は貴女にとって単に夫であるというだけでなく、大恩人でもあるでしょう? 

 自分自身を囚われの境遇から救い出してくれた。

 もしそんなひとが、本当の急病、特に向こうの地でかかってわざわざ連絡してくるならば、それこそ死病よね。移動の時点で死んでいてもおかしくはない様な。しかも、子供達は置いてたった一人。大使夫人がたった一人!

 そして夫の病状に対して震えることもなく、私の話を聞いてお茶をのんびりとすすっている。

 私がそう仕向けたとしても、本当にそうなら、何処か上の空になってもおかしくはない?

 だから、急病が嘘ではないかと思ったの。

 で、そこから逆に考えられないかと思ってみたの。

 大使が過激派のことを知ってしまった。そして彼等が大使を脅している。命も含めてね。

 その上で、貴女を動かしたかったのではないかしら?

 何故貴女って?

 だって、貴女の話は嘘は語っていないでしょう?

 東の国から売られてきた娘が、砂漠の国で仕事を覚えさせられる。

 貴女、暗殺者なんでしょう?。

 私を殺すための。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る