4

「義父母の悲しみったらなかったわ。その上、義父は会社の方も損害を受けた訳よ。殺された社員に対する補償、技術者の補完、新たな住宅の建設、犯人に対する娘婿の起こした件、風評被害…… 愛娘夫婦と孫達が死んだことを忘れる めにか、もうなり振り構わず働いていたわ。そうしたら、ある日過労で倒れたの」

「過労…… 確かにそうなってもおかしくはないですね」

「義父はその間、工場関係以外の事業を夫に任せたわ。彼はそこで運輸業の方に力を入れだしたの。新しい事業というのはいいわね。工場の方で労働争議が起こったのは、ある程度安定してきてしまったから、と言えるわ」

「何故です?」

「新しいところはそれどころではないでしょう? 仕事がやりがいあって楽しかった場合、そしてまだ参加している人材が少ない場合には、目的が一つとなっているからそういう隙が生まれない。夫はできるだけ、あちこちにそういう新たな状態の事業展開をしていったわ。この今走っている鉄道の支線も買い取って、その近くに住宅地を作ったり、遊園地や動物園、演劇ホールも計画していたわ。そして何と言っても、駅と直結した百貨店。これが当たったわね」


 知っているでしょう? と彼女は有名なな百貨店の名を出す。


「そちらのグループだったんですか」

「系列会社の中では今やこの鉄道と双璧と言っていいわね。それから真似をする鉄道会社が増えたこと」


 確かに。

 今ではあちこちのターミナル駅に、百貨店がついていることが多い。

 それを始めたのが彼女の夫君なのか。


「会社は右肩上がりに広がっていったわ。何とか本業の補填もできた。でも義父の体調は次第に悪くなってきたの。ある程度目処がついた、という時、倒れた時に発覚した持病が酷くなってね」


 心臓に負担がずいぶんかかっていた、とアイリーンは続けた。


「それで、アリッサ達が亡くなってから二年も経たないうちに、義父が亡くなったのよ。私はもう、その葬儀の時には涙が溢れて仕方がなかったわ。だって、義父は実父よりずっと私にとって『父』だったのよ。頼りになり、目標であり、そして何と言っても、家族の一員として愛してくれた。実家の父とこうも違うものか、何で優しいひと達が早死にしてしまうのか、ともう目が真っ赤になる程泣いて泣いて泣きまくったわ」


 実の家族。

 確かに私にとっても、それは希薄なものだ。

 何せ彼等は私を売った。

 食べていけないからだとは言え、それが事実だ。

 私はきっと彼等に再会したとしても、既に誰なのか判らないだろう。

 そして何の感慨も湧かないだろう。

 だからこそ、後になってできた「家族」の尊さは私にもよく判るのだ。


「それで、私が家庭教師に来た頃は賑やかだった屋敷も、私達と義母だけになってしまったの。せめてアリッサの子供の一人でも残っていてくれたら、と思うけど……」


 アイリーンは首を振った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る