第15話 リラさんの悪夢
「リラ、すごいじゃん!」
「マジ焦ったし!」
コスプレイベントが終わると見ていてくれた中学時代の友達が駆け寄ってきた。
「へへー。衣装のクオリティ半端なかったでしょ?」
「確かに。でもそれを着こなせるリラが凄いんだって!」
「そーそー。あ、あと一緒にいたブタのお化けもすごかった」
「でしょー? 丸川っていうの。あいつが──」
「マジブタだったよね」
「よくあんな逸材見つけたねー」
二人はケラケラ笑っている。
悪気がある訳じゃないのは分かってるけど、ちょっとムッとしてしまった。
「衣装は丸川が作ったんだよ」
「ねーねー、リラ。今からカラオケ行こうよ」
「あの衣装で歌って!」
二人はテンション高めに私の腕を引っ張った。
振り返ると丸川はそろーっと帰ろうとしていた。
その背中がなんだか卑屈でイラっとした。
「ごめん。今日は丸川と打ち上げだから」
「え!? マジで言ってる?」
「ごめん! またね!」
驚く二人を置いて丸川に駆け寄る。
「丸川ー!」
「え? リラさん」
「なに帰ってんだよ! もうっ!」
ぱちんっと背中を叩いて睨み付ける。
「え、いや……友達とカラオケに行くんじゃ」
「はぁ? 丸川と準優勝したんだから丸川と打ち上げに決まってるし」
丸川はいつもぐいぐい来るくせに肝心なところで引く。
もっと自分に自信を持てばいいのに。
「それともあたしと打ち上げするのが嫌なわけ?」
グイッと頭をつかんでヘッドロックする。
「あ、当たってますっ……おっぱいが当たってますから!」
「はあ? エロ! 変態!」
ムカつくから更にグイッと締め付ける。
痛いくせに喜ぶとか、マゾなの?
「行きます! カラオケ行きますから!」
その夜、あたしは夢を見た。
中学三年の陸上大会の夢だ。
もう繰り返し何回も見た夢だった。
ショートヘアで黒髪のあたしはひょろりとした身体にうっすらと筋肉をつけている。
女子千五百メートル走。あたしは必ず全国大会に行けると期待されていた。
スタートの合図と共に先頭集団につける。
周りの声援は遠くに聞こえ、心拍数と息遣いが聞こえる。
一周を回ったところで差も開きつつある。
あのコーナーだ。
あそこであたしは転ぶ。
分かっているのに走る。
あと百メートル、五十メートル、二十メートル……
「あっ!?」
コーナーを曲がった瞬間、アキレス腱に激痛が走った。
よろけて転び、後続の人に足首を踏まれる。
「嫌ぁあー! あああーっ!」
夢だから更に次々と人がやってきてあたしを踏みつけていった。
誰一人立ち止まらず、みんな遠くへと走っていってしまう。
「ゴールしなきゃ……まだ終わってないっ……」
無理矢理立とうとしてバランスを崩し、また倒れる。
スタンドからは笑い声がこだましていた。
「やめてっ!」
叫びながら目を醒ます。
目覚めても胸の動悸はしばらく収まらなかった。
全身にじっとりと汗をかいており、ベッドから出ると明け方の冷気で不快な冷たさを感じる。
痛くないはずの足首がぐわんぐわんと熱を持っていた。
陸上を諦めなくてはいけなくなったあの日の悔しさと恐怖は未だにあたしの中に残っていて、時おりこうして夢として現れる。
中学時代の友達と再開したから甦ってきたのだろうか。
あの日のことは忘れた振りをしても、どうでもいいと誤魔化しても、逃すまいといつまでも苛んでくる。
十一月には文化祭がある。
模擬店をして学外の人がやって来るような大規模なものは三年に一度しかなく、私たちの学年では二年生の時に行う予定だ。
今年は各クラスが舞台で演し物を披露するだけだ。
合唱、ダンス、演劇、コント、研究発表などなにをしても構わないし、何人参加しようが構わない。
受験で忙しい三年生は推薦入学を決めた人が中心にささやかなものをする程度らしい。
うちのクラスは演劇で、演目は『美女と野獣』をパロディにしたものに決まっていた。
今日は配役を決める日だった。
多数決でヒロインを決めた結果──
「ヒロインは安良川梨羅さんに決まりました」
委員長の直江鈴子が発表するとクラスが沸いた。
「ちょっ、無理だって!」
あたしの訴えをみんなが拍手でかき消してくる。
「リラしかいないよね!」
「頑張れよ、安良川!」
「マジ無理。台詞とか覚えられないし! 演技もド下手だよ!?」
「別にいいんだって。十分程度の短い劇だし、トチったってパロディなんだから笑いに変わるって」
なし崩し的にヒロインに決められてしまった。
これ以上ごねると空気が悪くなるかもしれないので、納得いかないけれど仕方なく受け入れる。
「次に野獣役ですが」
「はいはい! 僕がやります!」
丸川が立ち上がって挙手をする。
それを見てみんなが笑った。
「まるかわー。いくらリラの相手役がしたいからって無理があるでしょ」
「僕は野獣向きだと思うけど?」
「野獣はいいかも知んないけど、王子様に変身するんだよ? 丸川が演じたら野獣が野獣のままに見えるから」
みんながゲラゲラ笑うと、丸川は少し寂しげに「あ、そっか」と頭を掻く。
それが更にみんなの笑いを誘っていた。
あたしはなんだか腹が立つ。
笑うみんなに対してか、言い返しもせず笑って誤魔化す丸川になのか、自分でもよく分からない。
「あ、でも野獣の時は丸川で、王子に変わったとき別の奴がやったらいいんじゃね?」
美穂乃がそう提案するとみんながどよめいた。
「おー! それはいいアイデア!」
盛り上がるみんなを委員長の鈴子は黙って眺めていた。
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怒涛の展開となってしまい、すいません
リラさんは中学時代の悲劇を今でも夢で見てしまいます。
中学生の頃はギャルじゃなくて本格的なスポーツ少女だったんですね!
そして文化祭。
美女と野獣に挑戦することに!
果たしてどうなる!?
今後の展開にご期待ください!
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