第14話 ハロウィン・コスプレショー
ハロウィン当日の駅前は仮装をした人で溢れていた。
大半は小さな子どもたちで、町内をパレードしてあちこちでお菓子をもらうそうだ。
町内ごとにグループ分けをしてきちんと一列に並んで歩くハロウィンというのはいかにも日本的な光景だ。
「見て見て! あんな小さい子までお姫様のコスプレしてる。かわいいねー」
リラさんはテンション高めにその様子を眺めていた。
僕たちはコスプレコンテストに参加するのでパレードには参加しない。
近隣の住民に配慮してハロウィンの衣装に着替えるのは会場についてからという決まりがあるのでまだお互い私服だ。
「コンテストは僕たちが優勝です。あのリラさんの魔女に敵う人はいませんから」
「別に優勝とかはどーでもよくない? コスプレを楽しめたらいいの」
「さすがリラさん。勝ち負けに拘っていた自分の浅ましさが恥ずかしいです」
「またそうやってすぐ持ち上げる。やめてよね」
「あれー? リラじゃん!」
手を振りながら女子の集団がやって来る。
見たことない人たちなので恐らく中学時代の友達なのだろう。
気を遣って少し離れる。
僕のようないかにもなオタクと一緒にいるところを見られたらリラさんに迷惑がかかるからだ。
「おー、久し振り」
「リラもコスプレすんの?」
「まーね。コンテストに出ようかと思って。ルリたちも?」
「うちらはただコスプレだけしてコンテストを観戦するだけ」
高校の友達とはまたちょっと違う、気心が知れた顔で会話を楽しんでいた。
きっと中には小学校時代からの友達もいるのだろう。
またリラさんの新しい一面が見られたようで嬉しくなる。
友達と別れてから衣装に着替えに行く。
僕の衣装は昨日完成したばかりだ。
ブタのマスクを被り、肩当ての鎧だけつけて上半身は裸となる。毛皮の腰巻きをし、足元にはブーツ。
手には刃こぼれした切れ味の悪そうな剣を持つ。
少しやり過ぎかなと心配していたけど、僕以外にも上半身裸の衣装を来た人は意外と多いので心配無さそうだ。
もっともそういう人たちは僕みたいにぶよぶよでだらしない身体ではなく、筋肉で引き締まっていたけれど。
更衣室を出ると既に着替え終わったリラさんが待っていた。
「うわっ!? なにそのクオリティ!」
「やり過ぎでしょうか?」
「いい! マジブタの化けモンじゃん! ウケる!」
「ありがとうございます。リラさんもよく似合ってます」
「てかなんでそんなにうまいワケ? ちょっと出来るレベルじゃないでしょ」
リラさんは驚いた顔をして、僕のコスチュームを触って質感を確認していた。
「実は以前からコスチュームは作ってたんです。子どもの頃好きなアニメがありまして、それの変身グッズが欲しかったんです。でもその作品はかなりマイナーで、そういうグッズがなかったんです。それで自分で作ることにしました」
「なにその理由! あり得ないんだけど」
「母に裁縫を教わったり、縫製の動画を観たりして学びました」
「それで出来るもんなの!?」
「オタクなんで、凝り性なんですよね」
「そういう問題? マジ丸川って凄すぎ」
こんなに驚いてもらえるなんて光栄だ。
コスプレ作りをやっていてよかったと心から思った。
「これなら絶対優勝っしょ!」
「頑張りましょうね!」
仮装イベントはファッションコレクションのようにステージ上でランウェイを歩く。
それを審査員や観客にアピールするシステムだ。
さすがにイベントに参加する人たちは相当気合いを入れて仮装している
ゾンビ、吸血鬼、和風のお化け、まさに百鬼夜行だ。
「行くよ、丸川」
「はいっ!」
僕たちがステージに上がると観客のどよめきが一層大きくなった。
「うおー! すげー!」
「リアルすぎ!」
「魔女、すげー美人だな」
「ブタの化けもの本物みたい!」
様々な感想が聞こえてくる。
普段の僕ならこんなステージに上がるなんて緊張して足が震えるけれど、マスクをした変装をしているからさほど緊張しなかった。
それにリラさんをお守りするオークという立場なので勇気が湧いたのかもしれない。
「ウケてる」
リラさんが嬉しそうに耳打ちしてくる。
ランウェイを闊歩するリラさんは堂々としていて、まさに位の高い魔女姫だった。
僕は家臣のオークとして辺りを見回しながら魔女姫をお守りするように歩いた。
みんなが笑い、拍手をする。
不遜に手を振り観客を魅了するリラさんの姿が光輝いて眩しい。
この景色を僕はきっと一生忘れないだろう。
「それでは結果発表です」
司会者がマイクを握り、ドラムロールが鳴り響く。
賞を授賞した参加者たちは大喜びではしゃいでいる。
まだ僕たちの名前は呼ばれていない。
「次に審査員特別賞は」
ドドドドドドドドッ……
「魔女姫とオークのリラ&マルです!」
「やったー! 丸川!」
リラさんはむぎゅーっと僕に抱きついてきた。
「ちょ、リラさんっ……」
「マジ凄い! 二位だよ! やったー!」
戸惑う僕のことなどお構いなしにリラさんは抱きついたまま跳ねる。
ポヨンポヨンたる甘美な柔らかさに全身が硬直してしまっていた。
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見事審査員特別賞を獲得した二人!
おめでとう!
自らの体型を自虐的に利用する丸川のしたたかさとリラさんの美貌の結果ですね!
これでまたひとつ二人の距離は縮まったことでしょう
次回からまた新展開です!
お楽しみに!
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