第13話 フィッティング
ハロウィンイベント二日前にあたしの衣装が完成したと丸川から言われた。
早速フィッテングしたいので来てくれと言われ、放課後に丸川の家へと向かう。
なにげに丸川の家に行くのははじめてだ。
ジョギングのときはいつも丸川が迎えに来てくれるので行ったことがなかった。
はじめて行くとあって不覚にもちょっと緊張してしまっていた。
「ここがうちの家です」
案内されたのはお洒落な洋館というのがぴったりの一軒家だった。
凄く大きいというわけではないけどかなり立派だし、綺麗に手入れされた庭まであった。
「えっ……マジ? ここが丸川の家なの?」
「はい。なんかキャラに合ってなくてすいません」
「もしかして丸川の家ってお金持ち?」
「別にそんなに裕福って訳ではないですよ。父が小さいながらも会社を経営してますけど、母が手伝わないといけないレベルですし」
「へ、へぇ……」
想定外の展開に気後れしてしまう。
「さあ入ってください。今日は親はいませんし、妹も部活で帰りが遅いので」
「へ、変なことしようとしてるんじゃないでしょうね!」
「僕がリラさんにですか? まさか。そんなことするわけがないじゃないですか。畏れ多い」
まったく毒気のない笑顔で返されてしまう。
本気で丸川はエッチなことをしようなんて気は微塵もないのだろう。
ありがたいけれど、それはそれで女としてはちょっと微妙かも。
まあ丸川とそんなことするなんて、絶対にあり得ないけれど。
「これがそのコスプレ衣装です」
「凄っ! 本当にこれを丸川が作ったの?」
「はい。早速試着してみてください。直しとか必要かもしれないんで」
あたしが着替えるために丸川は部屋を出ていこうとする。
「絶対覗くなよ!」
「そんなことするわけないです」
「あ、分かった! 隠しカメラを仕込んでるんでしょ」
「そんなに信用ないですか?」
「そ、そうじゃないけど……でもあんた、あたしにめちゃくちゃグイグイ来るし。裸とか見たいって思ってるでしょ!」
「いえ。僕はリラさんの笑顔さえ見れればそれで満足です」
丸川はニッコリと笑って部屋を出ていった。
あの様子だと本当にあたしのえっちなところとか全く、興味ないのだろう。
一体なにがしたいのか、さっぱり見えてこない奴だ。
衣装は肩を露出したスリムなワンピースだ。そこに紫色のベールを羽織って肩や腕を隠す。
スカートの裾は魔女らしくなのか、破れたような作りになっている。
脚は黒い網タイツを穿き、妖艶さをアピールしていた。
「へぇ……いいじゃん」
鏡の前で思わず呟く。
悪い魔女というのが一目で伝わってくる。
しかも縫製もしっかりしていて、しかもあたしの身体にぴったりだ。直すところなんてどこにもなかった。
「着替えたよ」と声をかけると丸川が部屋に戻ってきた。
「どう?」
「凄い! さすがはリラさん! 僕の予想を遥かに超えて来ました。まさにファンタジーの世界の気高く美しき魔女のようです」
「大袈裟だってば」
「いえ。そんな陳腐な表現では表せないくらいの魅力です」
「丸川の衣装がいいだけだから」
「とんでもない。これはリラさんの美しさが作り出したファンタジーです!」
「もういいって。こっちが恥ずかしくなるし」
丸川はいい奴なんだけど、あたしを持ち上げすぎるのが苦手だ。
もうちょっと普通でいいのに。
「で、丸川の衣装は?」
「僕のはまだ完成してません」
「マジで? あと二日だよ?」
「途中までは出来てますので大丈夫です」
「ちょっと着て見せてよ」
「いえ。中途半端ですし、着るのにも時間がかかりますから」
「いいじゃん。見せてよ」
着る着ないの押し問答をしていると──
「ただいまぁ。お兄、誰か来てるの?」
妹ちゃんが帰ってきてしまった。
初対面でこの魔女の衣装というのは気まずい。
慌てていると、妹ちゃんは丸川の部屋までやって来てしまった。
「ねえお兄、聞いてるの?」
「ちょっと待って真優。いま忙しいから」
「なにが忙しいのよ。いるなら返事くらい──」
ドアを開けた妹ちゃんとバッチリ目があってしまう。
あたしの格好を見て驚いたのか、目を見開いて硬直してしまった。
「こ、こんにちはー……はじめまして、お邪魔してまーす……安良川梨良です」
「ちょ、お兄、遂に犯罪に手を染めたの!?」
「は、犯罪!?」
「誘拐してきちゃったんでしょ!? なにしてんのよ!」
「お、落ち着いて、えーっと真優ちゃんだっけ?」
興奮する真優ちゃんを落ち着かせて、なんとかあたしが丸川のクラスメイトだということや、これはハロウィンのコスプレだということを説明した。
「まさかお兄がこんな美人さんを家に連れてくるなんて……はっ!? まさかお兄になんか弱みを握られてるとか!?」
「真優ちゃん?」
「ご迷惑をお掛けしてすいませんっ! ほら、お兄も謝って! もう二度とさせませんから、どうか警察だけはっ!」
「そんなことしてないよ!」
「嘘つき! こんな美人さんがなんの理由もなくお兄の部屋に来るわけないでしょ!」
どうやら思い込みが激しい子みたいだ。
「違うよ。あたしが自分の意思で来たんだってば」
「そうなんですか?」
「大体弱みなんてないし」
「じゃあ警察には」
「行くわけないでしょ、もう」
「よかったぁー」
真優ちゃんは涙目で安堵している。
ちょっと暴走気味だけど可愛らしい妹ちゃんだ。
────────────────────
ついにリラさんの存在が真優ちゃんにバレてしまいました。
でもなんとなく仲良くなれそうな気配。
次回はいよいよハロウィン本番となります!
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