第12話 オークと魔女

 最近妹の真優は暇さえあればハロウィンのためのコスプレ作りに勤しんでいる。

 その努力をもう少し勉強に向けてくれれば、と兄は思う。


「なあ真優」

「なに、お兄。いま忙しいの」

「僕がコスプレするなら何がいいと思う?」

「オーク」


 真優は顔もあげずに即答した。


「あー、なるほど。オークってブタみたいに描かれることもあるし、確かに僕に向いてるかも」

「……お兄って本当に人がよすぎるっていうか、鈍感力というか、なんかすごいよね」

「え? なにが?」

「だってオークってバカにして言ったつもりなんだよ? それなのにそんなに納得されると、なんだかリアクションに困るんだけど」


 真優はため息混じりで首を振る。


「そうかな? 僕にぴったりのアドバイスだと思うけど」

「てか、お兄もハロウィンイベント参加するの?」

「う、うん。まぁね」

「珍しい。ああいうの苦手そうなのに」

「まぁそうなんだけど」


 ここで隠してもどうせ当日にバレてしまう。

 ならば言ってしまおうと決意した。


「友だちから誘われてて、それで」

「友だちってあのガリガリに痩せてる細田さん?」

「いや。女の子なんだけど」


 さりげなく伝えたつもりだったけど、真優はがばっと顔を上げて驚愕の表情を浮かべていた。


「お兄が女子とハロウィン!? 嘘でしょ!?」

「いや、これが本当なんだよね」

「ちょ、お母さん、大変ー! お兄が犯罪めいたことを!」

「は、犯罪じゃないから!」


 慌てて真優の口を塞ぐ。

 まったく兄をなんだと思ってるんだ。

 でもそんなところも憎たらしいけど可愛い。

 僕には過ぎた妹だ。



 その夜のジョギングでさっそく僕はリラさんにハロウィンの計画を伝える。


「オーク? 木材の?」

「違います。醜くて、粗暴で、ときにはブタの化け物みたいに描かれる知性の低い化け物です」

「相変わらず自虐的だねぇ。で、私はメスオークなわけ?」

「まさか! オークが護衛するお姫様です」

「だからなんで丸川はあたしをすぐにお姫様にするのよ」

「そりゃビジュアル的に」

「あ、そうだ!」


 リラさんはにひひと笑い、振り返る。


「あたしは魔女にする」

「リラさんが魔女だなんて、そんな」


 最高級の黒毛和牛を使ってビーフジャーキーを作るようなもったいなさがある。


「魔女って言ってもおばあちゃんじゃないよ。妖艶でセクシーな魔女なの」

「おー、そっち系ですか! ありかもですね」

「それでゴブリンを子分として従えるの。それなら文句ないでしょ?」

「いいですね! それなら主従関係も表せてますし!」


 リラさんの下僕というのはなんとも甘美な響きがある。


「じゃあ衣装用意しなきゃね。いつ買いに行く?」

「既製品なんて駄目です。リラさんの衣装なんですから僕が作ります」

「は? そんなの面倒だし、買った方がよくない? てかそもそも作れるわけ?」

「はい。母から裁縫を教わってますので」

「凄っ! 丸川ってほんと、なんでも出来るんだね」

「全然大したことないです」


 謙遜したが、リラさんから褒めてもらえるのはやはり嬉しい。

 ハロウィンなんて乗り気じゃなかったけれど、なんだか楽しみになってきた。


 そのとき、リラさんが顔を一瞬しかめて右足を庇うようなフォームになった。

 きっと古傷が痛んだに違いない。


「痛たたっ。お腹が痛くなりました。すいません、リラさん。歩いていいですか?」


 僕は慌ててお腹が痛い演技をして歩き出す。


「ったく。しょうがないなぁ」

「すいません」


 リラさんは少しホッとした顔で歩き出す。

 まだ走ることを再開して間がないリラさんに無理をさせるわけにはいかない。

 まずはゆっくりとリハビリ程度でいいのだから。


 途中からはほぼ歩きでリラさんの家の前に到着した。


「では採寸させていただきます」

「へ? 今から?」

「はい。衣装を作らせて頂こうと思い、メジャーを持参してきました」

「本格的じゃん」


 さっそく首回り、肩幅、腕や足の長さを採寸させてもらう。


「次は腰回りです」

「ちょ、やめてよ、変態!」

「いや、でも測らないと作れないので」

「っとにもう! 太いとか言ったら殺すからね!」


 よく考えたら身体のサイズを測られるなんて恥ずかしいに決まっている。

 気が利かない自分の迂闊さに腹が立った。

 けどここでやめるわけにもいかない。


「最後はバストです」

「はあ!? エロ! スケベ! 変態!」

「ち、違います。これは衣装のため」

「分かってるけど恥ずいのは恥ずいの!」


 文句を言いながらもリラさんは背中を向けて両手を上げてくれる。


「失礼します」


 これはエッチなことじゃない。

 自分にもそう言い聞かせてメジャーを巻き付ける。


「えっ!?」

「な、なに?」

「意外とおっきいんですね」

「ッッ! バカ! 死ね!」

「すいませんっ! つい心の声が!」


 リラさんは真っ赤な顔でバシバシと叩いてくる。痛いけど、ちょっと嬉しい。

 新しいなにかが芽生えてしまいそうだった。


「好きな色とかありますか?」

「色かー。そうだなー、バイオレットとかかな」

「お、いいですね。それなら魔女の衣装に使いやすいです」

「あ、あんまエッチなのは駄目だからね!」

「分かってます。僕だってリラさんの肌を無駄に露出させたくないですから」

「でも隠しすぎてもダサいし、ちょっとはセクシーにして」

「難しいですね。でも分かりました!」


 妖艶な魅力が香り立つようなものを希望してるのだろう。

 難しい課題だが、リラさんの美を際立てさせる仕事なのだから全力で取り組もうと気合いが漲った。




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 更新したと思ったらし忘れてました!

 1日開いてしまい、誠に申し訳ありません!


 凝り性な丸川くんは色んなことを習得してます。

 張り切ってリラさんの魅力を最大限引き出してもらいましょう!


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