第11話 誤解、解ける
僕を校舎裏に連れてきたリラさんは怒っているような、照れているような、不思議な雰囲気だった。
「どうしたんですか?」
「き、昨日、本屋にいたでしょ」
「本屋?」
「惚けなくていい! あたし、見たんだからね」
「あー、はい。行きました」
確かに買い物のついでに本屋に立ち寄った。
「別に丸川がなにをしてようが、誰といようが、あたしには関係ないけど」
「もしかして怒ってます? リラさんとの約束を優先しなかったから」
「お、怒ってない!」
「すいません。前から妹と約束してたんで。約束破ると拗ねるんで仕方なく」
「い、妹!?」
「あれ? リラさんが見たときは僕一人でしたか?」
「あ、いや……女の子と一緒にいるところを見たけど……あれ妹ちゃん? で、でも全然似てないじゃん!」
なぜかリラさんは怒っている。
似てない兄妹と驚かれることはあるけれど、怒られるのははじめてだ。
「妹は母似なんです。僕は父に似たので残念な感じですけど。あ、でも眉毛は似てるんですよ」
「しゃ、写真ある?」
「ありますけど」
スマホにある写真を見せると、リラさんは何かの鑑定士かのようにしげしげとじっくり観察する。
「確かに……どことなく似てるかも」
「あ、妹には絶対それ言わないでくださいね。あいつ、僕に似てると言われるのがこの世でなにより嫌いみたいなんで」
「妹ちゃんとなにしてたわけ?」
「ハロウィンの仮装に使う生地とか買いに行ってました。自作するそうで」
クラスの友達と地元のハロウィンイベントに参加するとやらで真優はやけに気合いが入っていた。
「ハロウィン……そういえばそろそろだね。丸川も参加するの?」
「僕が!? まさか。するわけないですよ。妹が仮装するだけです」
「なんでよ。したらいいのに」
「ああいうのは苦手なんで」
「じゃあ、あたしと一緒に参加しよ!」
いつの間にか怒りは収まったようで、リラさんは満面の笑みだ。
色々なリラさんを知っているつもりだったが、こんなにコロッと変わるのは知らなかった。
僕もまだまだだな。
「リラさんとですか!? 無理ですって」
「美女と野獣とかいいんじゃない?」
「それは畏れ多いです!」
「そうかな? ぴったりじゃない?」
「あれは元々イケメン王子ですし、そもそも美女と対等かそれ以上の立場です。僕には無理です」
「すぐそーいうこと言うんだから。とはいえあたしも美女とか荷が重いし、あんまそんなキャラでもないし」
「いえ。リラさん美女適任です。あ、そうだ『白雪姫と七人のこびと』とかよくないですか? こびとなら従者って感じですし」
「えー? なんかビミョー」
妙案だと思ったけれど、リラさんのリアクションは薄い。
「ま、いいや。なにに仮装するかは考えとく」
「ていうか僕が参加することが決定事項みたいになってるんですけど」
「往生際が悪い。やるって言ったらやるの」
「……はい」
リラさんの希望ならやるしかない。
僕は覚悟を決めた。
「それはそうとあたしのお弁当は?」
「あれは僕が食べましたけど?」
「えー? 自分のは?」
「それももちろん食べました」
「二つも食べたわけ!?」
「はい」
リラさんはムッとした顔になって僕を睨む。
「ダメじゃん! ダイエットしてるんでしょ?」
「それはそうですけど……残すともったいないですし」
「今夜のジョギングはいつもより厳しく気合い入れていくからね!」
「え? いや、でも。まだ体調悪いんですよね?」
「もう直った。ついさっき直ったから」
「そんなすぐに!? でも病み上がりに無理はダメですよ。今日はやめておいた方が」
「いいから行くの! 昨日休んだ分も取り返さなきゃ」
やけにやる気満々のリラさんを見て、少し嬉しくなる。
またリラさんが走るのを楽しんでくれている。
それだけで充分だ。
夜八時十分前、玄関でランニングシューズのヒモを結ぶ。
「お兄、また走りに行くの?」
既にパジャマ姿の真優が煎餅片手に声をかけてきた。
「まぁね」
「偉いじゃん。絶対三日坊主だと思ってたのに」
「まぁね。痩せないと健康にも悪いし」
まさか憧れの女子と走ってるとも言えず、ごまかす。
真優は煎餅をかじりながらじっと僕を見る。
「なんか最近のお兄、いいね」
「へ? そう?」
「明るい雰囲気だし、服も少しお洒落になったし、なんかシャキッとしてるし」
「そうかなぁ?」
自覚はないけど妹が言うならそうなのだろう。
それもリラさんのお陰だ。
「じゃあ行ってくる」
「はーい。気をつけてね。あ、帰ってきたらハロウィンの衣装作り手伝ってよね」
「はいはい。分かったよ」
ドアを開けると十月の冷たい風が吹いてくる。
でもいまからリラさんと会えると思うと、心の中はほんわりと温かかった。
────────────────────
勘違いで終わってなによりでした!
勘違いや行き違いは早めに確認して仲直り。それが基本ですよね!
さてハロウィンに参加することになってしまった丸川くん。
どうなることやら。
きっとハロウィンを通じて更に仲も深まることでしょう!
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