第10話 謎の美少女

 丸川と関わりはじめて約1ヶ月。

 知れば知るほど意外な一面が見えてきて面白い。

 相変わらずあたしを崇め奉るのはやめて欲しいけど、何度言っても変わらないのでやや諦めている。


 成績が上がったし、性格も穏やかになったとかでママは丸川をべた褒めしている。

 でも友だちのほとんどはあたしが丸川を相手にしていることに反対の様子だった。

 親友の美穂乃だけは素っ気なくだが「まあ悪い奴ではないんじゃね?」くらいのリアクションだが、他の人はいつか犯罪に巻き込まれるのではと心配している。


 あたしを心配してくれているのだからありがたいけど、でもみんな丸川を見た目や表面だけで判断しすぎだ。

 真面目に向き合えば悪い奴じゃないことは分かってくれるのに。


「あー、ヒマ……」


 今日は休日だけど一人で街をぶらぶらしていた。

 実は丸川を買い物に誘ったのだが、どうしてもはずせない先約があるとのことで断られていた。


『いつもあたしをあんなに優先してるくせに。丸川の奴め……』


 少し拗ねたような気持ちになり、慌てて心の中で否定する。


『別に丸川と買い物なんて行きたかった訳じゃないし。ただ丸川の靴や鞄がボロボロだし、買い換えさせたかっただけ』


 丸々っとした丸川の顔が脳裏に浮かび、クスッとしてしまう。


『あと出来れば美容室に連れていき、うざい髪型をスッキリさせて、ついでに前から行ってみたかった喫茶店に行き、帰りにカラオケに行こうとか思っていた。それだけだ』


 書店の前を通りがかり、店内を見て驚いた。


「え? 丸川?」


 丸川が女の子と二人で並んでいた。

 黒髪で清純そうな、少しあどけない顔立ちの女の子だ。

 とっさに隠れて様子を伺う。


「なんで丸川があんな可愛い子と二人でいるわけ!?」


 丸川がなにか気の効かないことを言ったのか、女の子は拗ねた顔をして丸川の二の腕を軽く叩いていた。

 どことなく丸川の表情もあたしといるときより自然で安らいでいる。


「丸川、あたし以外にもウザ絡みしてる女の子がいたんだ」


 どうでもいいと思いつつも、ちょっとイラッとしてしまう。


 しばらく動けずに観察していると、丸川はその子に腕を引っ張られて店の奥の方へと消えてしまった。

 尾行して更に様子を伺おうかとして、思い止まる。


「別にどーでもいいし」


 丸川が他に好きな女子がいても別にあたしには関係ない。

 好きにすればいいし、興味もない。

 ただ明日からは無視しよう。


 モヤモヤとするのも腹立たしく、あたしはその場を立ち去った。



 週明けの月曜日。

 丸川は何事もなかったように話し掛けてきた。


「おはよう、リラさん。体調大丈夫?」


 昨夜もジョギングに誘いに来たから、ママに頼んで体調不良ということにしておいた。


「朝からウザい。話し掛けんな」

「ごめんね。はい、これ」

「弁当とかいらないから。マジでもうやめて」

「体調悪かったら食欲もないよね。ごめん。気が利かなくて」


 空気を読めないのか、わざとなのか、丸川は謝りながら立ち去っていった。

 その後も完全に塩対応に徹し、話し掛けられてもほとんど無視をしてやった。

 だがそれでもめげないのが丸川だ。

 たぶんあたしの機嫌が悪いだけだと思い込んでいるのだろう。



「リラ、どした?」


 休み時間に美穂乃がチュッパチャプスをコロコロと転がしながら訊いてきた。


「なにが?」

「丸川と喧嘩でもした?」

「は? してないけど」

「なんかいつもと態度違くない?」

「もともとあんなキモオタと仲良くなんてないし」


 笑いながら伝えたが、美穂乃は表情を変えずじーっとあたしの目を見詰めて無言だ。


「ていうか喧嘩って立場が対等の間でするもんでしょ? あたしと丸川がするわけないじゃん」


 言ってて胸が痛くなった。

 別に丸川が下であたしが上とか思ってるわけではない。

 そんなあたしの心中を見透かしているのか、美穂乃は少し悲しげに目を細めた。


「やめなよ。そんなこと思ってないんでしょ」

「まあ立場とか、そういうのは関係ないけど、とにかく元からあたしと丸川はそんなになか言い訳じゃないから」

「なにがあったのかは訊かないけどさ。でも行き違いならちゃんと話し合った方がいいよ」

「別に丸川なんてどーでもいいし」


 吐き捨てるように言うと、いきなり美穂乃はひしっとあたしの肩を抱いてきた。


「どうでもいいならなんでリラはそんなに悲しそうな顔してるの? 強がって意地張ってると後から絶対後悔するよ」

「み、美穂乃……」


 耳許で囁いてきたあと、美穂乃は相変わらずのポーカーフェイスのまま立ち去っていく。


 確かに美穂乃の言う通りだ。

 丸川が他に好きな女子がいようが、昨日の女の子がたとえ彼女だったとしても、別にあたしには害はない。

 けれどこのままモヤモヤとした状態で生活するのはよくないと思った。


 ささっと訊いて終わりにしよう。

 そう思っているのだがなかなか勇気が湧かず、結局放課後になってしまった。


 丸川は本当にあたしの具合が悪いと思い込んでいるのか、あまり声をかけて来ない。

 グイグイ来るくせにそういうところは気を遣って来る奴だ。

 また明日にしよう。

 そう思って教室を出ようとすると、丸川が近付いてきた。


「じゃあリラさん、また明日。身体に気をつけてね」

「ちょ、ちょっと待って」

「なんですか?」

「いいからちょっとこっち来て」

「はい」


 丸川を連れて校舎裏の人気のないところへと移動した。



────────────────────



謎の美少女の登場でうろたえるリラさん。

そしてそしらぬ振り?の丸川。


ライバル?出現でリラさんは心の中にあるちょっとした焦りに気付いたようです。

果たして丸川の口からはなにが語られるんでしょうか?

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