第23話 ライバルはママ!?
十二月に入ると世間はなにやらソワソワと浮き足立つ。
「ねー、リラ。クリパするでしょ?」
「あー、どうかな? バイトとか忙しいし」
「えー?」
彼氏がいる子はどこでデートするとかで盛り上がり、いない子はみんなでパーティーをしようとはしゃいでいる。
でもあたしのバイト先はクリスマスや年末は忙しいからバイトのシフトを入れてしまっていた。
「バイト終わってからとか無理なの?」
「うーん。疲れてるからなぁ」
「あ、そっか。それもそうだよね」
「ごめんね」
「ううん。大丈夫。予定変わったら教えてね」
せっかく誘ってもらったのに断るのはちょっと気が引けた。
あたしを誘った女子は次に丸川の席へと向かっていった。
「ねー、丸川もクリパ来る?」
「クリパ? クリスマスパーティーのこと!?」
「ウケる。それ以外にクリパってあるの?」
まさか誘われるなんて思っていなかったのだろう。
丸川は遠目から見てもテンパっていた。
「僕なんかが参加してもいいの?」
「よくなかったら誘わないでしょ」
「そ、それもそうだね。んー」
丸川はあたしの方をチラッと見てきたので、さっと視線をそらす。
別にクリパに参加するかどうかなんてあたしに関係なく決めればいいのに。
「クリスマスパーティーか。滑稽だな。あのようなものは愚民のするものだよ」
丸川の隣にいた細田がニヒルな顔で笑い飛ばす。
「あ、細田は参加しないんだ?」
「へ? そ、その言い方だと僕も誘おうとしてくれてた?」
「もちろん。でも参加しないんでしょ?」
「す、するに決まってるだろ! いや、させてください!」
「愚民のすることじゃなかったの?」
「 僕は愚民だよ! 愚民の代表的な人物だ! 丸川氏も参加しよう!」
「あ、いや、待って」
「僕たちは参加ですので」
「おっけー。じゃあ詳細はまた連絡するからー」
なし崩し的に丸川も参加することになったようだ。
「ねぇ、私も参加していい?」
「鈴子も来る? もちろんいいよー」
なんと丸川が参加すると決まった瞬間にそれまで涼しい顔して静観していた鈴子まで参加を表明した。
「いいの、行かなくて?」
美穂乃がチュッパチャプスをちゅぽんと抜きながらチラリとあたしを見る。
「バイトだし」
「あたしが代わってあげようか?」
「はあ? 美穂乃は彼氏とデートなんでしょ?」
「別にいいよ。いつも会ってるんだし」
「いいって。それにクリスマス出たら特別手当てもらえるんだよ。超ラッキーじゃん」
「ふぅん」
美穂乃は棒の部分を持って口の中でチュッパチャプスをくるくると回転させる。
なんだか変に勘繰られているみたいでなにか言い返したかったけれど、美穂乃はなんにも言わずにスマホを弄っているのでなにも言えなかった。
放課後は図書室で丸川と勉強をする予定だったけど、用事があるからと嘘をついて家に帰った。
ママはまだ帰ってない。
普段は下手くそだから作らないけど、夕飯を作ることにした。
メニューはオムライスとサラダとコーンポタージュだ。
料理のコツはたまに丸川から聞いているけど、いざやってみるとうまくいかない。
チキンライスはなんだか味にむらがあるし、ミキサーを活用して作るコーンポタージュはなんだか塩辛かった。
しかも片付けながら調理をしないので出来上がる頃には、キッチンは大惨事だった。
小麦粉があちこちに散らばり、ミキサーから溢れたポタージュは飛び散り、洗い物は山盛りだ。
「はぁ……丸川はよくやるよね、こんなこと……」
嘆いても仕方ない。
黙々と片付けをしているとママが帰ってきた。
「あら、リラが作ってくれたの?」
「まあ、味は残念な感じだけど」
「ありがとー。助かるわー」
ママが洗い物を手伝ってくれるとあっという間に終わった。
やはり手際のよさが違う。
「いただきまーす」
「言っとくけどあんま美味しくはないからね」
「んー、おいしい!」
「え、うそ?」
あまりにもママが幸せそうに食べるので奇跡で味が変わったのかと期待した。
だけど──
「しょっぱい。全然美味しくないじゃん!」
「そーお? 美味しいわよ」
「無理しなくていいってば」
「娘が一生懸命作ってくれたんだもん。美味しくないわけないでしょ」
ママはニコニコしながら雑切りサラダを頬張る。
「最近は勉強もしてるし、お料理まで作ってくれて。彼氏くんのおかげね」
「は? 彼氏なんていないし」
「えー? またまたぁ。丸川くんだっけ? いい彼氏じゃない」
「あり得ないし。あいつは彼氏なんかじゃなくてただのクラスメイト」
話を広げられたくないので素っ気なく返す。
しかし恋ばな好きのママはそんなことでは止まらない。
「まだ付き合ってなかったの? 丸川くんも奥手ね」
「なんでもかんでも恋愛に結びつけないでくれる? ただの友だちだから」
ママの世代は恋愛至上主義だったらしく、すぐにそういう方向に考える。
ママたちに言わせれば恋愛をしない青春なんて、苺の乗っていないショートケーキみたいなものなのだろう。
その割に同性同士の恋愛には理解がないのも特徴だ。
まああたしもそういう経験はないけれど、人がそういう趣味でも不思議だとは思わない。
「早くしないと丸川くん、他の女子に取られちゃうよ?」
そのひと言で頭に浮かんだのはもちろん鈴子だった。
「……別にいいし」
「いいのね。じゃあママが狙っちゃおう」
「はあ? 冗談でもやめてよね」
「なんでよ? 別にふざけてるんじゃないわよ? 丸川くんはしっかりしてるし、明るいし、まるっとしてて可愛いし」
「丸川があたしのパパになるとか絶対嫌だから」
むきになるあたしにママはケタケタと笑う。
いい歳して困った人だ。
そのときピンポーンとチャイムが鳴る。
「あら、丸川くんがランニングを誘いに来たみたい。ママも走ろうかしら」
「やめて」
玄関に行こうとするママを制してドアを開ける。
「こんばんは、リラさん。寒い夜ですけど頑張りましょう」
「う、うん」
あんな話をしていたからなんだかちょっと恥ずい。
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
「はい。行ってきます」
丸川が返事をするとママはにんまりと笑う。
あたしは無言でママを睨み付けてから部屋を出た。
冬の夜風は思っていた以上に冷たくて、身体と頭が一気にきゅっと引き締まった。
────────────────────
素直になれないリラさん。
ていうかいきなり異性として意識するのは難しい
とはいっても周りは待ってくれない
クリスマスはどうなるんでしょうねー?
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