ツンギャルにデブオタがひたすらグイグイ押し続けていたら、めちゃくちゃデレてきた

鹿ノ倉いるか

第1話 ギャル女神、リラさん

 安良川あらかわ梨羅りらさんが教室に入ってくると、一気に空気が華やぐ。

 普通の教室が一変し、ギャルゲーの世界にでも迷い込んだ気分になる。


 はちみつ色のロングヘアも、ぱっちりとした目許のメイクも、扇情的なミニスカートの制服の着こなしも完璧だ。

 ちなみに僕は美しいギャルのリラ様とは正反対で、背が低く、デブで、キモいオタクである。


「おはようございます、リラ様!」


 スライディングで跪き、リラさんの前に馳せ参じる。


「毎朝、毎朝うぜーんだよ、丸川まるかわ

「今日もお綺麗ですね、んふふ」

「その笑い方やめろよ。マジ無理」

「さーせんふふ」

「きっもっ!」


 リラ様は声も美しい。謗りの言葉でもまるで天使の歌声のようだ。


 授業中、リラ様はよく寝ている。

 バイトやお友だちとの交流で寝不足なのだろう。

 いつでもノートをお貸しできるよう、僕は読んだときに理解しやすいことを意識して記述していた。


 秋の日差しを浴びて昼寝をするリラ様は可愛いし、美しい。

 あどけない子猫のようでもあるし、妖艶な女神のようでもある。


 お昼休みは下僕である僕にとって大切な時間だ。


「リラ様、こちらをどうぞ!」


 今日は海老カツサンドとクリームパン、そして無糖レモンティー。

 メニューが被らないように選んで買ってきている。


「だからいらないって。いつも言ってるでしょ!」

「ラインナップがお気に召しませんでしたか?」

「パンのチョイスじゃなくて丸川が『お気に召さない』んだって」


 文句をいいながらもリラ様はいつも受け取ってくださる。


「はい、お金」

「いりません。それは女神様への供物ですから」

「ふざけんな。ほら」


 僕が受け取らないとリラ様は机の上にお金を置いて立ち去っていく。

 律儀にお金を払うところがまた謙虚で素晴らしい。

 見た目だけでなく、心も美しい人だ。


 放課後、僕は真っ先にリラ様の元へと馳せ参じる。

 これも毎日の習慣だ。


「帰りは送らせてください」

「……お前、マジでぶっ殺すぞ?」


 過激なツッコミにリラ様のお友だちは笑っていた。

 さすがに帰りをお供させてもらったことはいままで一度もない。

 いつもはここで終わりだけど、今日は珍しくその後に会話が続いた。


「ていうかさ、なんなの?」

「なにと仰られますと?」

「なんで丸川はあたしにウザ絡みしてくるわけ?」

「それはもちろんリラ様が好きだからです」


 当然の理由を伝えるとリラ様はボッと一瞬で顔を赤らめた。

 お友だちは「ひゅーひゅー」と半笑いでからかっていた。


「ふざけんな! 迷惑なんだよ! 二度とあたしに話しかけんな! わかったか!」

「えっ……迷惑って、不快ってことですか?」

「そうだよ! マジ、鬱陶しいし、キモいんだよ」


 リラ様は怒りながら帰ってしまう。

 僕は呆然として、一歩も動けなかった。


 まさか僕の想いが迷惑だったなんて、思ってもみなかった。

 そりゃ相思相愛じゃないことくらい分かっていた。

 でも迷惑をかけていただなんて……


 高校に入学してから半年間。僕は毎日リラ様に迷惑をかけていたことになる。

 大好きなリラ様に不快な思いをかけさせるわけにはいかない。

 辛いけど、もう二度とリラ様には話し掛けないようにしなくては。



 翌朝、リラ様が登校してきて、思わず体が駆け寄ろうと反応してしまう。


『駄目だ。迷惑はかけられない』


 暴れだす心を押さえてなんとか堪える。

 リラ様はチラリと一瞬こちらを見たが、すぐに友だちと会話を始める。

 僕が近寄ってこなくて安心されたのだろう。


 休み時間も、昼休みも、放課後も、僕は必死で堪えた。

 全てはリラ様のためだ。


 そうしてリラ様となんとか関係を断ち切って一週間が過ぎた。

 関わらなければ僕の気持ちも鎮まるだろうと思っていたが、実際は逆である。

 日に日にリラ様への気持ちは大きくなってしまっていた。


 その日の放課後、どしゃ降りの雨だった。予報では夜から降ると言っていたのに夕方から降りだしてしまっていた。

 念のため傘を持ってきていたので問題ないが、なんだか雨でも見たい気分だったので教室の窓から外を眺めていた。


 雨は弱まるどころか勢いを増していく。

 日も暮れてきたので仕方なく昇降口に向かうと、困った顔をして空を見上げるリラ様がいた。

 きっと傘を忘れてしまったのだろう。

 少し迷ったが傘を貸すくらいはいいだろうという判断になった。


「あの、リラ様」

「うわっ、丸川。まだいたのかよ」

「リラ様も遅かったんですね」

「あたしは補習」

「そうでしたか」


 リラ様はプイッと顔を反らして気まずそうにされていた。

 やはり話し掛けるべきではなかっただろうか……


「あの、よかったら、傘を……」

「あんたはどうするの?」

「僕はこれくらいの雨、平気ですから」

「んなわけないし。川が氾濫するレベルに降ってるんだから」


 リラ様が少しだけ笑った。

 僕の言葉で笑ってくださったのははじめてのことだ。

 それだけで胸がふわぁーっと暖かくなる。


「つーか丸川、最近話し掛けてこないじゃん。無視してんの?」

「え? い、いや、それはリラ様が迷惑だと仰ったので」


 率直にお伝えするとリラ様は気まずそうに眉を歪めた。


「あ、あんなの勢いで言っただけじゃん。なにマジにしてんの? ウケるんだけど」

「そ、そうなんですか!? じゃあ話し掛けてもいいんですか?」

「い、いいに決まってんだろ。クラスメイトなんだし」

「ありがとうございます! さすがはリラ様! お優しい!」

「でもその変な敬語やめてよね、あとリラ様っていうのも! リ、リラでいいし」

「呼び捨てなんてとんでもありません。じゃあリラさんって呼ばせていただきます!」

「敬語もやめてよね」


 天にも昇る気持ちとはこのことだ。

 今この瞬間、間違いなく僕は世界で一番幸せな人間だろう。


「じゃあ傘、使ってください!」

「え、ちょ、ねえ!」


 傘をリラさんに渡し、僕は雨の中を駆け出す。

 涙の雨に感じていたが、これは祝福のシャワーだ。

 ずぶ濡れになるのも構わず、僕は駅まで駆けていた。





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新作、大分遅くなってすいません!

鹿ノ倉いるかです!


ダブルヒロインの物語やその他の作品を途中まで書いたのですが、「コレジャナイ感」が凄くてボツりました。


そしてようやくこれだという案が浮かび、本作を書きました!

デブオタとツンツンギャルのラブコメです!

丸川くんは見た目以外、実はかなりハイスペックです!

本人は無自覚ですけど。

徐々に明らかになっていきますのでお楽しみに!

いつも通り毎日午後七時頃更新となります。

本作もよろしくお願いいたします!

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