第2話 リラさんのダイエット

「丸川、ほら、傘……ありがと」


 翌朝、リラさんの方から僕のところにやって来て傘を返してくれた。


「晴れてるのにわざわざ傘を持ってきてくれたんですか!? ありがとうございます! 差し上げたつもりだったんですけど」

「丸川、大丈夫だったわけ? ずぶ濡れだったでしょ?」

「僕の心配まで!? 女神のようなお優しさ!」

「そーいうリアクションやめろってば。普通でいいから」

「すいません。んふふ」


 しあわせで気を失いそうな朝だ。

 リラさんが友だちのところへと行ったあと、唯一の親友である細田ほそだくんがやって来る。

 ちなみに彼はガリガリに痩せて長髪のタイプのオタクだ。


「よかったな、丸川氏」

「ありがとう、細田くん。どうやら嫌われていたわけではなかったみたいだよ」

「幸せオーラが溢れておるぞ、丸川氏」


 細田くんはちょっと変わった話し方をする。

 どうせオタクと見なされてるなら骨の髄まで貫くためらしい。

 他人など関係ないというその生き方はかっこいいと思う。


「でもどうして丸川氏は安良川さんがそんなに好きなのだい?」

「どうしてって、そりゃ……」


 親友の彼でも僕がなぜここまでリラさんに夢中なのか、本当の理由は教えていない。


「完璧な美と女神のような優しさを兼ね備えているからだよ」

「お、おう……そうか。でも……」

「なに?」

「怖くないのかい? 安良川さんってギャルというより、ヤンキーというか……ヤバい友だちとかもいそうだし」


 細田くんに悪気がないのは分かっている。

 親友である僕を心配してくれているのだ。

 だからリラさんを見た目で判断しても、不快な気分にはならなかった。


「大丈夫! リラさんはそんな人じゃないから」

「そうかい? まあいずれにせよ無茶は禁物だ」

「心配ありがとう。さすがは親友だね!」


 お昼休みの供物も再開だ。

 今日はサラダチキンとライ麦パン。それにストレートティーである。

 どうもこの一週間、リラさんは低カロリーのものを自分で買ってきているのを確認したからだ。

 完璧なフォルムであるリラさんがダイエットの心配などする必要はないのだが、どうやら本人は気にしているようなのでそれに合わせてみた。


「どうぞ、リラさん」

「こういうのはいらないんだって、丸川。あたしたちはただのクラスメイトなんだから」


 そう言いつつもリラさんは受け取って、中を確認してくれた。


「あ、サラダチキン……」

「減量されているようなのでローカロリーのものにしてみました」


 出来る家臣のようにそっと耳打ちすると、リラさんは顔を赤らめる。


「うっさい! セクハラだかんね、そういうの!」

「え!? す、すいません」


 怒りながらも料金を渡される。

 選んだ品は気に入ってもらえたようだが、余計なことは言ってはいけないらしい。勉強になる。



 放課後、みんなが帰ったあとリラさんが僕のもとにやって来た。

 何やらちょっと恥ずかしそうにしている。

 そんなリラさんもとても可愛い。


「あの、丸川。教えてもらいたいことがあるんだけど」

「はい! 僕に出来ることなら、なんでも! あ、もしかしてダイエットメニューですか? お任せください!」

「違うわ! ってあんたみたいなぽっちゃりにダイエットの相談なんてするわけないでしょ!」

「し、失礼しました」


 リラさんのご指摘もごもっともだ。

 僕の方こそ健康のため、少しは痩せた方がいい。


「丸川って成績いいじゃない。ちょっと勉強を教えてもらいたくて」

「それならお安いご用です!」


 リラさんが僕を頼ってくれた。

 今日はそのネタだけで日記一冊書けそうだ。


「よかったら今から図書室で──」

「これをどうぞ!」


 僕は鞄からノートを取り出して渡す。


「ん? これは?」

「ノートです。分かりやすくまとめておきました。リラさんが苦手と思われるところの解説もつけてます」

「うわっ、ほんとだ。きれいにまとまってる。ていうか字、うま! 本当に手書きなわけ、これ?」

「はい。一時期フォントに凝ってまして、いろんな書体を書けるように特訓しました」

「マジで? 丸川ってどこに向かってるわけ?」


 文字を褒めてもらえるなんてしあわせだ。

 練習をしていてよかった。


「そのノートをお貸し致しますので」

「あ、ありがと。助かるよ」

「では頑張ってくださいね!」

「あ、あともうお昼、もう買ってこないでよね!」

「迷惑でしたか?」

「迷惑じゃないけど……もうちょっとバランスを考えた食事にしようかなって思って。買ってばっかだとお金かかるし」


 健康管理に気を付けるのは大切なことだ。

 確かに店で買ったものばかりでは栄養が片寄る。


「それでしたら僭越ながら僕が明日からお弁当作ってきます!」

「は? いや、ないない! そんなことしなくていいから!」

「任せてください。これでも料理は得意ですから!」


 こうしてはいられない。これは早速帰って献立を考えなくては。


「あ、ちょっと! 直接勉強教えてくれる訳じゃないの!?」

「そこに書いてあるから大丈夫です! リラさんは元々頭いいからすぐに理解できます!」

「ちょ、丸川ぁ!」

「すいません、失礼します!」


 こうしてはいられない。

 スーパーに行き、あれこれ買い出しもしなきゃ行けないし、仕込みもしないといけない。

 僕は大急ぎで帰宅していった。



 ────────────────────



 せっかくのチャンスを活かしきらない丸川くん。

 そこは一緒に勉強しなきゃ!

 なぜ丸川がここまでリラさんに夢中なのか、リラさんはなぜギャルなのかなど次第に明らかになっていきます


 次回はリラさん視点となります。

 まだまだ噛み合わない二人がどう噛み合っていくのか、お楽しみに!

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