第27話 オンライン勉強会あるある(ない)

 期末テストが近付いてきており、テスト勉強も大詰めを向かえていた。

 さすがにこの時期だけはジョギングをやめて勉強に集中しようと言ってきたのはリラさんの方だった。


 放課後は二人で図書室に行き、勉強をした。

 リラさんの理解力は高く、はじめにノートを貸した頃に比べると遥かに学力は上がっていた。

 下校のチャイムが鳴り、僕たちは学校をあとにした。


「テスト、不安だなー」

「大丈夫ですよ。リラさんはすごく理解してきてるじゃないですか」

「それは丸川の教え方が上手だから。家でちゃんと勉強できるか不安だなぁ」


 本当は家にお邪魔して一緒に勉強したいが、さすがに夜にお邪魔するのは迷惑なので出来ない。


「あ、そうだ。オンライン勉強会しよっか!」

「なんですか、それ?」

「ビデオ通話にして勉強をすること。知らない?」

「聞いたことあります」


 相手の顔が見えるからサボれないし、スマホもビデオ通話中だから弄れないという効果があるらしい。


「早速今夜からやってみようよ!」

「了解しました」


 リラさんの顔が見えたらむしろ勉強が手に付かなさそうな気もするが、リラさんの役に立つならやる価値はありそうだ。



 午後七時半。約束の時間になり、準備をしているとリラさんから着信があった。


「やっほー、丸川」


 リラさんは部屋着に着替え、髪をひとつ纏めに括っている。

 いつもと雰囲気が違い、それはそれで可愛かった。


「こ、こんばんはっ。丸川です」

「固い。なに緊張してんのよ」

「ビデオ通話とか、はじめてなもので」

「マジ? 丸川のビデオ通話童貞、もらっちゃった」


 軽いジョークのつもりなのだろうが、僕は情けなくもびゅくんっと反応してしまった。


「さー、やろう」

「どの教科から始めますか? やっぱり苦手な数学からにします?」

「もー、丸川。別に教えてもらうためにしてるんじゃないよ。お互い黙って勉強するだけ」

「そうなんですか?」

「てかあたしに教えてばっかだと丸川が勉強する時間なくなるじゃん」

「ありがとうございます。じゃあ分からないところがあったら質問してください」

「ありがと」


 こうしてオンライン勉強会が始まった。

 リラさんは本当に一言も喋らず黙々と勉強をしている。

 なるべく会話しないためにと通話音量もかなり小さく設定していた。

 普段二人で勉強しているときはあれこれ関係のない話をするのに、オンラインだとむしろ真面目になるらしい。


 一方僕はスマホの画面に写るリラさんをチラチラ見てしまい勉強に集中できない。

 難しい問題にぶつかった時は眉間にシワを寄せて首を捻ったり、問題が解けたときは嬉しそうに口許を緩めたり。

 魅力的な表情に溢れており、ドキドキしてしまう。


 リラさんは自分の部屋で勉強しているので背景には部屋の様子も映っている。

 先日はじめてお邪魔したときは緊張した。

「狭いし散らかってるから」と恥ずかしそうにしていたけれど、実に女の子らしくて可愛らしい部屋だった。


 それにあのチェストの上の写真立て。

 あそこにはハロウィンの時の写真が飾られている。

 オークに扮した僕と魔女姫のリラさんのツーショット写真だ。

 まさか僕の映った写真を飾ってくれているなんて夢にも思っていなかった。

 リラさんの毎日の生活の中に入れてもらえた気分になり、ものすごく嬉しい。

 まあ別に深い意味はないのだろうけど。


 ピピピピッ……


 タイマー音がなる。

 ふと時計を見ると、終了予定の午後九時半になっていた。


「あ、もうこんな時間か」


 息継ぎをするようにリラさんが顔を上げる。


「あっという間だったね」

「本当ですね」

「よかったらこのまま──」

「お兄! ちょっと大変! 私の部屋のテレビが壊れたー!」


 妹の真優が勢いよくドアを開けて部屋に入ってくる。


「テレビが? どうせ変なボタン押したんだろ?」

「いいから来て! あ、リラさんこんばんは! ビデオ通話中でしたか?」

「こんばんは」

「いまお兄ちゃんは勉強中なんだ」


 せっかく延長出来そうだったのに迷惑な妹だ。


「大丈夫。いま終わったから。テレビ直して上げて」

「そうですか? すいません、リラさん」

「ごめんなさい」

「いいのいいの。じゃ、また明日ね」

「ほら、お兄、早く。ドラマが始まっちゃうから」


 後ろ髪を引かれる思いで真優の部屋に行く。

 僕の予想通り、ただデータ放送のボタンを押しただけで壊れてもなんにもいなかった。

 ワンタッチで直して部屋に戻る。

 今ならまだ間に合うかもしれない。


 部屋に戻るとまだ通話状態のまま繋がっていた。

 しかし──


「えっ!?」


 リラさんは机に座っておらず、横を向いて立っており、シャツのボタンを外していた。

 通信を切り忘れたままお風呂に入る準備をしてるようだ。

 以前リラさんがうちに来たとき、我が家の脱衣所を見て広くて羨ましいと言っていたのを思い出す。

 リラさんの家は脱衣所が狭いので着替えは部屋でするとか言ってたっけ。


 リラさんはふわりとシャツを脱ぐ。

 白い肌とレースのまばゆいブラが丸見えになった。


「リラさん、まだビデオ通話のままですよ!」


 必死に呼び掛けるが、リラさんは気付いてない。

 通話音量を小さく設定しているから聞こえないんだろう。


「ちょっ、ダメです、リラさん!」


 気付いていないリラさんは背中に手を回し、ぽつんッとホックを外してしまう。

 肩ひもが一気に緩み、持ち上げられていたバストがたゆんと落ちる。


「リラさーん! 気付いて!」


 ようやく僕の声が聞こえたリラさんはこちらを見て目を丸くし、慌てて胸元を抑えた。


「きゃーっ!」

「す、すいません!」


 リラさんはしゃがんで画面から消える。

 二秒後、画面したからニュッと顔半分がアップで現れた。


「……見た?」

「み、見てません!」


 目許しか見えないけど顔が真っ赤なのは分かった。


「エロ! スケベ! 変態!」

「ち、違うんです! これは事故というか」

「なにが違うのよ。見てたくせに!」

「必死で止めたんですよ」

「止めなくていいの。丸川が回線切って消せばいいんだから!」

「あっ……」


 今さらその事実に気付いた。


「焦っていて、それを失念しました」

「嘘付け! 頭いいんだからそれくらい分かるでしょ、フツー!」

「動転してまして……すいません」

「ほんとにもー!」


 ジトーッと睨まれ、汗がだらだらと噴き出す。

 こんなのラッキースケベでもなんでもない。

 むしろアンラッキーだ。

 明日朝イチスライディング土下座をしようと胸に誓っていた。



 ────────────────────


 更新が滞ってしまい、大変失礼しました。

 年末年始、バタバタしてました。

 本当にすいません。


 ちゃんと更新を再開致します!


 ストックがないので少し止まる可能性もありますけど、きちんと完結まで行きますのでご安心を!


 お詫びの記しにリラさんのラッキースケベなど。


 今後ともよろしくお願いいたします!



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