第6話 彼氏調査

「えーっ!? 安良川さんとデートしたとな!?」

「ちょ、声大きいから」


 細田くんは目を剥いて驚く。

 昼休みの校庭の裏庭には人がいないから誰にも聞かれてないと思うけど、もう少し小さい声で話して欲しい。


「デートじゃなくて買い物。服を買って散歩して、その後喫茶店に行っただけ」

「それを世間ではデートと呼ぶのですぞ」


 細田くんはパックのジュースをちゅーっと吸いながら非難がましい目を向けてくる。

 これじゃなんだかマウントを取ってるみたいで申し訳ない。


「細田くんに言いたいのはそこじゃなくて──」


 友だちから隠れたらリラさんから叱られたことを説明する。


「ふむ。なるほど……あくまで丸川氏は僕にマウントを取りたいってことでオッケー?」

「違うってば!」

「だって友だちに見られても恥ずかしくないって言われたんでしょ? おめでとう、キモオタ卒業だ。明日からは別々にお昼を食べよう」

「やだよ! なんでそうなるのさ!」

「フヒヒ、冗談ですぞ」


 細田くんはにんまりと笑って僕を見る。

 言葉はちょっと刺があるけど、僕とリラさんの仲が進展して喜んでくれているのは雰囲気から伝わってきた。


「でも大丈夫? 安良川さんって、その……」


 細田くんは言いづらそうに視線を泳がす。


「なに?」

「いや、彼氏とか、いないのかなって」

「なぁんだ、そんなこと?」


 深刻な顔だからなにを言い出すのかと身構えてしまった。


「彼氏がいたっていなくたって関係ないよ」

「関係あるでしょ!? 彼氏持ちなんて好きになっても傷つくだけですぞ」

「え? なんで?」

「なんでって……フラれるの確定でそ。それとも彼氏から奪ってみせるとか思ってるわけではあるまいな?」

「あはは! まさか!」


 細田くんは面白い人だ。

 思わず声をあげて笑ってしまった。


「彼氏がいようがいまいが関係ないよ。僕はリラさんのファンなんだ。好きなアイドルに恋人がいたってそれを裏切りだとか思わないでしょ? 僕がリラさんのファンであることと、リラさんに恋人がいるかは全く別次元の話だよ」

「マヂか……丸川氏、漢だな」

「そうかな? 普通だと思うけど」

「でも彼氏の方はどう思うかな?」


 心配性の細田くんは腕を組んでうーんと唸る。


「どういうこと?」

「自分の彼女に付きまとう男がいたら嫌だと思うでしょ。ましてやデートするなんて論外」

「まぁ、それもそうだよね。でも付き合ってる人はいないと思うよ。大概女子としかつるんでないし」


 常にリラさんを追っているからその辺は確認済みだ。


「それって学校内の話だろう? むしろ安良川さんみたいな人は中学時代からの彼氏とかバイト先とかで彼氏作ってるんじゃない? それこそ大学生とか社会人の彼氏とか」

「あっ……なるほど」


 中学時代はいないと分かっているが、バイト先はあり得る。

 リラさんに迷惑をかけないためにも確認した方が良さそうだ。



 高校から家とは反対側に二駅行くと繁華街がある。

 買い物客が多く向かう南口ではなく、夜の街漂う北口に出た。

 飲み屋などが立ち並ぶ猥雑な小路を少し進んだところにリラさんのバイト先であるハンバーガーショップがある。


 そのこと自体は以前から知っていたけれど、さすがに迷惑かなと思って来たことはなかった。

 まあ、バイト先を知るために尾行したのだから、それだけで十分迷惑をかけているのだけれど。


 少し離れた場所から店内を覗くとリラさんがバーガーショップの制服を着て接客をしていた。

 前髪が出ないように帽子を被り、前掛けエプロンをしたリラさんは普段よりも清楚で爽やかに見える。


 何を着ても似合う!

 可愛すぎるぞ、リラさんっ!


 ってそんなこと言ってる場合じゃない。

 僕は調査のためにやって来たんだ。


 仕事場にいきなり現れたら迷惑になるので僕だと気付かれずに潜入し、彼氏らしき人はいないか確認する作戦だ。

 もちろん彼氏がいようがいまいが僕の気持ちは変わらない。

 ただ彼氏がいるならこれからは休日に誘われても断ろうと決めていた。


 しっかりと変装をして店内に入るとリラさんの「いらっしゃいませー」という軽やかな声が響いた。

 ドキドキしながらカウンターの前に立つ。


「えっとナチュラルチーズバーガーにポテトL、フライドチキンとスティックテーズケーキ、あとコーラのLください」

「……おい、丸川」

「へ?」

「なにあたしのバイト先まで来てんだよ!」

「マ、マルカワ? 違イマスケド?」

「なにそのダサいサングラス。それとそのよく分かんない帽子は」

「よく分かんないってヒドいです。これは僕の好きなアニメのキャラの限定品の帽子です」


 煽られて、思わず帽子を脱いでしまった。


「やっぱ丸川じゃん」


 サングラスを外され、リラさんの呆れた細目と視線が合ってしまう。


「おおー、リラさん。ここでバイトしてたんですね」

「ざけんな」

「わわ、ちょっと。帽子を返してください」


 想像以上にリラさんはお怒りのようだ。


「あたしは仕事中なんだ。邪魔しにくんな」

「す、すいません」

「二度と来ないでよね」


 ぐいっと深く帽子を被せられる。

 秒でバレたし、かなり怒っているみたいだし、作戦は大失敗だ。




 ────────────────────



 彼氏確認作戦はあえなく失敗となりました。

 てか普通バレるだろ、丸川よ。

 お怒りになってしまったリラさん。次回丸川の名誉挽回なるか?

 そしてまたひとつ丸川の隠されたハイスペックが明かされます!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る