第5話 恥ずかしい人

 服を着替えてから丸川は少し自信がでたのか、少し落ち着いた雰囲気になった。

 それがなんだかちょっと嬉しかった。


「お洒落な店ですね」

「でしょー? ここは美穂乃に教えてもらったんだ」

「美穂乃さんってリラさんが仲良くされていて、いつもチュッパチャプス舐めてる方ですよね」

「そう。あの子、こういうのよく知ってるんだよね。いつもチュッパチャプス舐めて、ポップコーンばっか食べてるくせに」

「お二人は仲がいいですよね」

「まぁねー。中学からの仲だし。美穂乃っていい奴でさー」


 つい調子に乗って美穂乃のいいところ自慢をあれこれしてしまう。

 興味ないかなと思っていたが、丸川はメモでも取りそうなほど真剣に聞いてくれた。


「へー。いい人ですね」


 丸川は嬉しそうにニコニコしながら頷いていた。

 まさかコイツ、いまの話を聞いて美穂乃に乗り換えようとしてるんじゃ?


「あ、美穂乃にウザ絡みしたらダメだかんね」

「しないですよ、そんなこと」

「怪しいなー。だって丸川ってギャル好きなんでしょ?」

「僕が? いいえ。全然そんなことありませんけど?」

「は? じゃあなんであたしに絡んでくるのよ!」

「それはリラさんだからです。リラさんが清楚系だろうが、メンヘラだろうが、ヤンキーだろうが、僕はリラさんのファンです!」

「な、なにそれ? キモ。ヤンキーになんかするわけないし」


 な、なに言ってんの、コイツ。バカなの?

 顔が熱くなってうつむく。

 丸川が恥ずかしいこと言ってるのになんであたしが恥ずかしい思いしなきゃいけないわけ?


 美穂乃おすすめというだけあって、ケーキはとても美味しかった。

 丸川も大喜びで、連れてきた身としては嬉しかった。

 てか丸川はなんでも喜んでくれるから、なんだか一緒にいて苦にならない。


 喫茶店を出たあとは少し歩いて港の公園に来た。

 海風が心地いい。

 最近は繁華街の方ばかり行っていたからこの辺りに来るのは久し振りだ。


「きれいだねー。天気もいいし」

「はい」


 なぜか先ほどから丸川はうつ向き気味で歩いている。


「どーしたの?」

「いえ、その……リラさんと買い物して、喫茶店に行き、しかも海辺で散歩なんてして、幸せなんですけど……あまりにもいいことがありすぎてその反動で今夜死ぬんじゃないかなって思って」

「はぁ? なにそれ?」

「人って一生の運が決まってると思うんです。明らかに今日の僕は幸運を使い果たしている気がして、今夜辺り良からぬことが起きそうで」


 冗談かと思ったけど、丸川はいたって真剣にそう語っていた。


「なんなの? バカなの? 丸川はあたしをなんだと思ってるわけ?」

「えーっと……女神様?」

「同級生だよ!」


 パチンと肩を叩く。


「同級生と遊びに来たくらいで死なない。大袈裟なんだよ、丸川は」

「すいません」


 自分でいうのもなんだが、いったいあたしの何がそんなにいいのか理解に苦しむ。


 しばらく海沿いを歩いていると、商業施設が見えてきた。

 飲食店や雑貨屋、観光客相手のお土産屋、それと大きな観覧車のあるところだ。

 まあ丸川と二人で観覧車に乗るのはまだ早いな、などと思っていると突然手を握られた。


「へ?」

「リラさん、こちらへ!」

「えっ!? ちょ、なになに!?」


 想像以上に強い力で引っ張られ、ホテルの影に連れて行かれる。

 まさかこいつ大人しそうに見えて実はヤバい奴?


「ちょ、なんなのよ!」

「すいません。あそこに」


 丸川が指差した先にはクラスの友だちが数人いた。


「あー、あの子らも遊びに来てたんだ」

「見られたらまずいと思いまして」

「なんで? 別によくない?」

「いえ。リラさんが僕みたいなキモオタと休日を過ごしていたなんて知れたら迷惑ですから」


 丸川は微笑みながらそう言った。

 その瞬間、怒りがこみ上げてきた。


「っざけんな! おい、丸川!」

「は、はいっ!」

「お前はなんでそんなに卑屈なんだよ? 別にあたしは見られたってなんにも困らないし!」

「い、いえでも。向こうはどう思うか」

「あの子らがどう思うかなんて関係なくない? あたしがいいならいいの! ていうか連れてるの見られて恥ずかしい奴なら誘わないから!」

「ご、ごめんなさい」


 ギロッと睨むと可哀想なくらい丸川は背中を丸めて謝っていた。


「シャキッとする!」


 その背中をパチンと叩くと丸川は「はいぃい!」と言いながら背筋を伸ばす。


「雨の日に傘貸してくれたり、勉強教えるノート貸してくれたり、美味しいお弁当を作ってきてくれたり、感謝してる。優しいし頭いいし料理もうまいし、すごいじゃん、丸川」

「そ、そうですかね?」

「もっと自信持ちなよ」

「自信ですか……」


 否定するとまた背中を叩かれると思ったのか、丸川は言いかけた言葉を口の中でモゴモゴと削除した。


「返事は?」

「は、はいっ! 自信を持ちます」


 おどおどしながら言われても説得力がなくて笑ってしまう。


「まあ無駄に自信過剰な奴よりいいけど、あまり卑下するのも感じよくないからさ。あたしは丸川ってすごいと思うよ」

「そ、そうですか。ありがとうございます」


 話す前はうっとうしくてキモい奴だと思っていた。

 でもこうして接してみると悪い奴じゃないし、色々といいところも知れた。

 まあ、ぐいぐい来るのはちょっとやめて欲しいけど。

 遊覧船が出発の合図の汽笛を鳴らす。

 カモメの大群が水面から一斉に飛び立つ。

 秋の夕方の景色は赤に染まってとても優しく、美しかった。



 ────────────────────



 リラさんの心にもちょっとづつ変化が生まれているようですね!

 でもそこで押しきれないのが丸川です。

 頑張れ!見た目はあれでも中身はイケメンだぞ!


 さて今日12月1日は映画の日ですね。

 私の住む神戸で日本初の映画がやって来たそうです。

 私は見ようと思いつつもバタバタしてて観られなかった『恋する寄生虫』を観賞してきました!

 なかなか洒落た映像で音楽も素敵でよかったです!


 皆さんは最近どんな映画をご覧になりましたでしょうか?

 やはりスクリーンで観るのとテレビで観るのは違いますよねー

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