第16話 脚本家、細田くん
野獣役をダブルキャストにするという美穂乃さんのは名案だった。
さすがはリラさんの親友だ。
お陰で僕は野獣役としてリラさんと共演できる。
もちろん普通ならリラさんの相手役だなんて畏れ多いので志願しない。
でもヒロインに選ばれたリラさんはとても不安がっていた。
だから僕が相手役になってサポートしようと名乗り出たわけだ。
放課後は出演メンバーと裏方をしてくれる有志で集まり、ミーティングが設けられた。
美穂乃さん、僕の親友細田くんや委員長の直江鈴子さん、変身した綺麗な方の野獣役の池杉巧馬くんの姿もあった。
「王子役なんて出来るかな。よろしくね、丸川くん」
巧馬くんは端正な顔に不安を滲ませながら挨拶してくる。
少年のようなあどけない顔立ちながらキリッとした眉が魅力的な人だ。
クラスの女子にも一番人気がある。
彼なら確かにリラさんの相手役に最適だ。
「こちらこそよろしく。て言うかこういう時って相手役のリラさんに最初に挨拶すべきなんじゃないの?」
「そうかな? 二人で一人の役をするわけだから一番は丸川くんでしょ」
さりげなく気を遣ってくれる。こういうところも女子に人気の秘訣だろう。
巧馬くんは見た目だけじゃなくて性格も素晴らしい。
「文化祭まであまり時間がありません。シナリオは既に完成してます」
委員長がそう告げると細田くんが「んふふ」と笑う。
「僕が台本を書かせてもらいました。ベースはポーモン婦人版の美女と野獣となっております」
細田くんが言うには『美女と野獣』というのは三つのものがあるそうだ。
細田くんが選んだのはポーモン婦人版というのはオリジナルを簡易にしたものだそうだ。
僕の知ってるアニメのストーリーとは若干違った。
とはいえ大筋では大体同じだ。
お父さんが薔薇を摘み、その代償として優しい末娘が野獣と暮らすこと。
野獣に求婚されてもヒロインが断ること。
一度帰宅したヒロインだったが、野獣の命が危うくなり慌てて帰ること。
ヒロインが野獣に結婚を申し込むと、野獣が王子様に戻ること。
それらは全てのバージョンで同じだ。
そして細田くんが書いてきたシナリオも、その大筋は踏襲している。
ヒロインが過剰に野獣を嫌っていたり、冷たくあしらわれて野獣の方も喜ぶドMだったりとコミカルになっている。
「なるほど。これはなかなか僕向きの内容かもしれません」
「醜いブタとか罵られて喜ぶんですよ!? ちょっとやり過ぎな気もします」
台本を読んだ委員長は眉をしかめる。
真面目な彼女にはちょっと悪ふざけが過ぎると感じるようだ。
「いーんじゃない? それくらいした方がウケるでしょ」
気乗りしてなかったリラさんだけれど、細田くんの台本が気に入ったらしくやる気が出てきた。
「人の容姿を馬鹿にするのはよくないと思います」
「大丈夫だよ、委員長。そこは悲壮感なく演じるから。というか美女と野獣をやるならどうしても容姿いじりは避けられないと思うし」
「まあそうですけど……でも醜い豚はないと思います。丸々っとした豚さんくらいの方が……」
「ダメですな。それじゃニュアンスが変わってくる」
台本にプライドがあるのか、細田くんも譲らない。
結局委員長以外は賛成だったのでこのままの台本でいくこととした。
稽古の他に衣装作りも必要となる。
「ドレスは僕が作ります」
「丸川くんが? いや、でも主役をお願いして衣装までお願いするのはさすがに負担かけすぎです」
委員長は僕の負担を心配してそう言った。
「家で作ってくるから大丈夫だよ。さすがに他の衣装は皆さんにお願いしたいですけど」
「裁縫得意なんですか?」と委員長は目を丸くした。
「すごい上手だよ。マジ、プロレベル」
僕への質問に答えたのはリラさんだった。
そう言ってもらえるのは嬉しいけれど、無駄にハードルを上げるのは勘弁して欲しい。
「なぜ安良川さんが知ってるんですか?」
「ハロウィンのコスプレ作ってもらったから」
質問にリラさんが答えると、なぜか委員長はムッとした顔でリラさんを睨んだ。
「勉強の負担になりませんか?」
「心配いらないよ。妹のドレスとかも作ったことあるから慣れてるし」
「そうですか。本当になんでも出来るんですね。それではお願いします。ひ、必要なら私も手伝いますので」
「ありがとう」
委員長はクラスを纏めるためにいつも全力だ。
僕に言わせれば委員長の方が仕事が多くて大変そうで心配になる。
ミーティング後は僕とリラさん、細田くん、美穂乃さんの四人で下校した。
「細田、すごいよねー。台本面白いよ」
「まあ、ヒロインのベルと野獣の配役は僕の予想通りだったからね」
「え? あたしがヒロインになるってなんで分かったの?」
「そりゃクラスで一番華があるからね。そして安良川さんがベルなら丸川くんが野獣に立候補するのは自白の理」
ヲタ独特の語り口調にリラさんや美穂乃さんが引かないかとヒヤヒヤしたけど、二人ともまるで気にしてない。
さすが二人とも懐の深いギャルだ。
「ん? 待って。ということは細田くんは僕だと想定して『醜い豚』だの『薄のろの権化』とか書いたわけ!? しかもそれを言われて野獣が喜ぶという設定まで!」
「安良川さんに言われたら嫌な気はしないだろ?」
「確かに」
「納得するな!」
リラさんはペチッと僕の肩を叩く。
美穂乃さんはチュッパチャプスを舐めながら表情を変えずにその光景を見ていた。
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新キャラも登場して物語は加速していきます!
細田くんは意外にも脚本の才能があったんですね!
委員長と池杉くんにも注目です!
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