第33話 勇気を振り絞って
ダメだ……
丸川がここまで鈍感だとは思わなかった。
こんなにもヒントを与えてるのに、全然正解の行動に移れないなんて……
気遣いが出来て、頭もよくて、普段は勘も鋭いのに。
肝心なところでいっつも間違うんだから。
「ど、どうしたんですか、リラさん。そんながっかりした顔をして」
丸川はおろおろとして、「寒いんですか?」とか「もしかして脚が痛いとか?」などと見当違いなことばかりを言う。
きっと今まで女の子やら恋愛とは無縁な生活をしすぎて、自分に好意が向けられてるなんて想像も出来ないんだろう。
そう思うと鈍いところも可愛い。
「丸川」
ペチッと丸川の頬を両手で挟む。
「ふぁ、ふぁい」
「いつまでも女神としてしか見ないの? あたしを女の子として見てくれないの?」
遂に自ら言ってしまった。
丸川が気付くまで絶対に言わないと決めていたのに。
「それは、その」
「あたしと付き合いたいとか思わないわけ? 女神様とか言ってたらいつまで経っても距離は縮まらないんだけど?」
「え? え? なにをっ……」
おろおろしていた丸川だが、ジィーッと瞳を覗き込むとようやくあたしの気持ちに気付いたようだった。
「丸川っていっつもあたしを崇め奉るけど、一回も告白してきたことないよね」
「それは、だって……リラさんは……」
丸川は息を飲むのと一緒に喉元まで出かかっていたであろう『女神様』という単語も飲み込んだようだ。
「一回くらいコクってみたら? イブなんだし……」
丸川の頬を離して一歩下がった。
恥ずかしくて丸川の顔が見られないので眼を伏せる。
「り、リラさんっ、あの、そのっ……す、す、すす」
丸川はあたしより遥かにあたふたしていて、顔を真っ赤にしていた。
背筋を伸ばし、ぴんっと棒のように硬直している。
頑張って。
瞳でそう伝える。
「その、えっと……ずっと前から、違うな……リラさんは僕にとって……いや、これはダメか」
言葉を選びすぎているのか、全然告白が進まない。
いつもは猪突猛進なのに、こんなときはダメなんだから。
「もうっ! 丸川! あたしのこと、好きなんでしょ!」
「は、はいっ! 大好きです!」
「じゃあズバッとひと言言えばいいの!」
「す、好きです、リラさん! 僕の彼女になってください!」
言わせたようなものだけど、でも丸川にそう言われた瞬間、心の中がふぁーっと熱くなっていった。
身体は冷えているのに、内側は燃えるようだ。
「しゃーないなぁ。じゃあ付き合ってあげる!」
ゴールテープを切るように丸川に抱きついた。
「うわっ!? リ、リラさんっ!?」
「ほら、丸川もギューってして」
ギューって抱き締めると、躊躇うように丸川の腕があたしの背中に回る。
あたしが残り少ない歯磨き粉のチューブを絞り出すように力一杯抱き締めるのとは対照的に、丸川は優しくふんわりと抱き締めてくれる。
少しもの足りないけど、でもそれが丸川らしくて嬉しい。
「丸川」
「はい?」
丸川があたしの顔を見下ろした瞬間、キスをした。
「へ?」
「メリークリスマス、丸川」
「い、いまキキキキキスをっ!?」
「キスくらいでうろたえるな」
「仕方ないじゃないですか! だって僕は童貞ですよ!」
「それがどーした! あたしだって処女だし!」
恥ずかしくて笑うと、今度は丸川の方からキスをしてくれた。
まさかお返しのチューがあるとは思ってなくて、頭の中でクラッカーが鳴った。
「丸川のクセに……」
もう一回あたしからすると、丸川も返してくる。
夢中になってキスの応酬をしてるうち、どちらからともなく、もっと深くてえっちなキスに変わった。
身体がふにゃふにゃになり、意識がとろんとしてくる。
「好きだよ、丸川……」
「僕も、大好きです」
「うん……知ってる」
丸川の頭を両手で掴み、またキスをする。
唇を重ねるたび、舌が触れあうたび、あたしはもっともっと丸川が好きになっていく。
子供の頃に夢見た恋人とは全然違う見た目だけど、子供のころ考えていた優しい彼氏より遥かに優しい。
陸上を諦め、拗ねてギャルになり、そしてこんな素敵な人と恋人になれた。
人生、ほんとなにが起るか分からないものだ。
────────────────────
遂に気持ちを伝えあった二人!
丸川もようやく男になれました!
無駄にぐいぐい行くくせに肝心なときはダメな奴でしたが、ようやくですね!
次回はほのぼのエピローグです!
お楽しみに!
ツンギャルにデブオタがひたすらグイグイ押し続けていたら、めちゃくちゃデレてきた 鹿ノ倉いるか @kanokura
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