第23話 可愛くなりたい水瀬さん

浴室の扉を開け、いつも通り、正面の鏡に全身を映す。

そしてとぐるりと確認するように、ゆっくりと回った。

(よかった、どこも腫れていないし大丈夫そう)

ほっと一息ついて、私は少し熱い湯舟に浸かった。


鏡の前で一回転して見せたのは、決してフィギュアスケーターやバレリーナに憧れている訳ではない。

いや、少しは憧れているけれど……そうではない。確認をする為なのだ。

何せ今は真夏、汗疹やら虫刺されやらで肌が荒れやすい。

そしてどうやら、私はそういう体質ならしく、蚊に刺されると関節が一つ増えたかのようにぷっくりと腫れてしまう。

幼い頃そうなって以来、毎年夏が来るたびに、お母さんから早めに気づいて薬を塗れと何度も言われている。

しかし、動くことも嫌いとしている私からすれば面倒な気持ちが勝ってしまい、確認なんて全くしてこなかったのだ。


(男の子はきっと、お肌がスベスベで綺麗な人の方が好きだよね……?)

二次元の女の子はみんな綺麗だし、田中君も多分__

「って私、何考えてるの! あーもう、ほんとに……もう」

私ってこんなにもちょろかったんだ、と今更に自覚する。

でも、やっぱり幻滅しないでくれたのは嬉しいなあ。

__これからもアニメ友達、なのかな。

偶々同じクラスで、席が隣で、同じ委員会のただの友達なのかな。ずっと。

(友達になってくれただけで嬉しいけど……! でも、贅沢言っちゃだめだよね)

手で湯を掬い、顔にぱしゃっとかける。

「せめて、可愛いって思ってもらえるように頑張ろ」

そう考えを固めた私は、いつものシャンプーではなく、お母さんが使っているちょっとお高めな方を手に取った。



その日の夜、私はスマホである事を調べることにした。

『男子高校生 可愛いと思われるには』と、検索欄に打ち込む。

そして出てきたのは、①上目遣い ②服のはしをちょんと引っ張る ③自然なボディータッチ、等々。

私には高難易度のものばかりだった。

(上目遣いとか服のはしとか、距離が近すぎる! そんなの緊張して出来ない……ボディタッチなんてもっての外だしなあ)

何か私にも出来そうなものはないのか、と探していると『○○くんってかっこいいよね! と褒めるべし』と書かれたサイトを見つけた。

詳しく見てみると、下の名前なら尚良し。だそうだ。

(かっこいいは言えるか分からないけど、下の名前くらいなら……あ、れ?)


「田中君の下の名前、私知らない……?」

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