第19話 馬鹿二人、再来。

無事にテストが終わり、いつも通りの生活に戻った。

佐野は相変わらずテンションが高く、廊下で走り回っているし、前野は俺に推しキャラの魅力をかれこれ10分ほど語っている。

しかし、二人ともどこか違和感があるのだ。


遠くでは階段で足を踏み外したのだろうか。

「きゃぁぁぁあっ‼」という男子高校生にもかかわらず、可愛らしい女の子のような佐野の悲鳴が校内中に鳴り響いているし、俺の目の前で現在進行形で語っている前野は、たまに遠くを見つめたり筆箱をやたらと撫でいたりと落ち着きがない。

(空元気なんだろうな)

そう思いつつも好奇心旺盛な俺は我慢できず、前野にテストの結果を尋ねることにした。


「えーっと。少し気になったんだけど、この間のテストどうだった?」

すると彼は乾いた笑みを浮かべこう言った。

「クラス順位は……さ、さんじゅうはち。38位だったよ」

俺たちのクラスは全員で40人。ということは____うん。

かなり崖っぷちだな。

ちなみに佐野はどうだったのかと尋ねると、したり顔をして

「僕より2つ下の40位だったよ!」と言った。

お前が言うな感は否めないが、おい佐野。

最下位じゃねーか。

「はぁ……どうして俺の周りはこう、綱渡り状態の奴らばっかりなんだ」

「はっ! もしかして田中君が僕たち学力を吸い取ってる⁉ こんな低能な僕たちからも根こそぎ奪ってしまうなんて、恐ろしいやつめ!」

そんな事を言い出すものだから、俺は思わず前野の頭を軽く頭を叩いてしまった。

「そんなことしても大して変わらないだろうし、遠慮しとく」

そう俺が冗談で言うと少しショックを受けたようで、別にいいし……といじけてしまった。

流石に申し訳なく思ったので背中をさすりながら謝っていると、先ほど叫んでいた佐野が帰ってきた。


「聞いてくれよ田中ぁ。さっき階段で足踏み外しそうになってさ、まじで死ぬかと思った。一瞬綺麗な川見えたし。あとさ__あれ、前野どしたの。腹痛?」

「いや、ちがう。ざっくりと言えば、テストの結果で落ち込んでる感じだな」

そう説明すると、佐野は得意げにこう言った。

「俺なんて最下位だぜ? それに比べりゃ大したことないって!」

なんと彼は落ち込むどころか、開き直ってしまっていた。

まだ落ち込んでいる前野の方が可愛げがあるな。

この馬鹿二人の様子に、俺は「はぁ……」とため息をついてしまった。

そしてある事を決めた。


「よし。夏休み、勉強会するぞ‼ 基礎から徹底的に分からせてやる‼」

そう言ったやる気満々の俺とは真逆に、二人は心底嫌そうな顔をし、

「確かに成績は悪いけどさ……」

「お、俺は部活の練習あるし! ごめんだけどパス!」

と言った。

赤点を取らないためには勉強をするしかないし、佐野は部活だと言っているが、この間俺に予定表を見せながら「休み多くてラッキー!」と言っていたじゃないか。

もう言い逃れは出来まい。

__こうして強制参加の勉強会の開催が決まった。


(どう教えたら分かりやすくなるんだろう……)

そう考えながら図書委員の仕事をするべく、図書室へ向かっていると、前方に水瀬さんの姿が見えた。

一緒に行こう。そう声をかけようとしたが、いつもと雰囲気が異なっていて話しかけられなかった。

俺はデジャブを感じつつも、いつもの場所へと向かった。

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