第20話 テスト終わりの図書室①

結論から言おう。

水瀬さんは別人のようだった。

廊下で見かけた時に少し雰囲気が違うとは思ったが、少しどころではない。

違っていた。

いつもはイルミネーション並の煌めきを放っているのにも関わらず、今日は隣にいるだけでこちらも気が重くなるような、そんな雰囲気だったのだ。


ひとまずこの空気をどうにかしようと目論んだ俺は、担任の小林先生(通称コバセン)から得た情報を駆使して話しかけることにした。

「そ、そういえばこの学校にラノベが多いのって、歴代の図書委員にアニオタが多かったからなんだって。少しずつリクエストしてたって小林先生が言ってた」

「へぇ、知らなかった」

彼女は小さな声でそう口にし、会話は終わってしまった。

(今の会話、トータルで10秒も話していないんじゃないか?)

しかもほとんど俺が勝手に話してたし、と俺は一人焦っていた。

緊張して上手く話せなかったにしてもこれは短すぎる。

水瀬さんはこの間“転A”テンエーにハマっていたところだし、この話題には食いつかずにはいられないだろう! と自信を持っていたんだけどなぁ。

こうもあっさりと破られてしまったら太刀打ちできないじゃないか。

(この空気どうしてくれるんだよ! 助けろコバセン!)

俺は胸の前で手を合わせ、何の罪もないコバセンに助けを求めてみたが、運良く図書室の前を通りかかるなんて奇跡はもちろん起きなかった。

一応、とはいっても起こるはずがないのだが、コバセンが怪しげな光と共にぼわっと現れたりだとか上から降って来てくれないかとか色々願ってみたけど、やはり無理だった。


以前の俺ならここで諦め、話しかけないだろう。

だがしかし俺は挫けなかった。

水瀬さんに少し冷たく返事をされただけで心がバッキバキのズタボロになっていた、あの頃とは違うのだ。

もう一度冷たく返事されても大丈夫だと腹をくくった俺は「この前のテスト、数学だけやたらと難しかったね」と話しかけた。

すると、彼女はきょとんとした顔で「……え? そうなの?」と逆に質問をしてきたのだ。

想像の斜め上を行く回答に戸惑った俺は、不安になってしまった。

「応用問題かなり出題されてなかったっけ?」

「あーうん、そうだったかも。でも私……」

水瀬さんはばつが悪そうな顔をし、口ごもった。

そして暫くしてこう言った。

「凄く言いにくいんだけど……私、現代文以外はからっきし出来ないの」

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