第21話 テスト終わりの図書室②
そして彼女は俯きながら「だから、応用問題も出ていたのかもしれないけど。私、その問題にたどりつけてすらないの」と、かすかに聞こえる声で言った。
俺は冷たく返事されなかったことに喜びを感じつつ、彼女の言葉に違和感を持った。
発言から察するに、恐らく水瀬さんは勉強が出来ないという事を隠していたのだろう。
そしてその秘密を今俺に暴露したようだ。
ここで本来なら「そうだったの⁉」と驚くべきではあるけど……。
「あぁ、どうりで」
そう俺が言うと、彼女はがっと勢い良く顔を上げこちらを見た。
くっ、かわいい。口が空いてるけどそれもまたいい。
俺は限界オタクのようなことをついつい思ってしまっていた。
「な、な、何で知ってたの⁉」
「えっと……象でもわかるとかいう参考書を借りていたから、なんとなくそうかなって」
あとテスト前にヤマを聞いてきたから。と説明すると、彼女は突然立ち上がった。
そしてスカートを軽く整えて座り直し、俺の目を見てこう言った。
「想像していた水瀬真雪じゃなくて幻滅しちゃった?」
想像していたというのは噂のことだろうか。
そういえば、少し前に佐野が“容姿端麗で勉強ができる”とか言っていたような気がするし。
周りに理想を求められるあまり、素が出せなくなってしまったのかな。
今の水瀬さん、可愛いのに。
「____幻滅しないよ。寧ろ、そのままの水瀬さんの方が俺は……っ。いいと思う」
俺は喉まで出かかったその言葉を急いで飲み込んだ。
事実ではあるけどキザすぎるし、俺には合わない。
それに水瀬さんはきっと言われ慣れているだろうし、俺なんかに言われてもな。と、こんな言い訳を並べてみたが結局は恥ずかしいだけなのだと思う。
(女の子に可愛いとか。無理だ……)
俺はカッターシャツの胸元をパタパタとして、火照る顔を誤魔化しながら彼女の方を見た。
__パッと視線が交わった。
すると忽ち水瀬さんの顔はゆでだこのように真っ赤っかになってしまった。
そして彼女は「あー、今日は特に暑いね……!」と、聞いてもいないのにそんなことを口にしながら、両手で顔を覆った。
そんな彼女を見て、また顔に熱がこもっていくのが自分でも分かってしまう。
「そ、そうだね! 冷房あんまり効いてない気がする!」
俺も彼女に同意しながら、ボタンが取れそうな勢いでバタバタと新鮮な空気を送った。
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