第32話 宣誓

それから、勉強に飽きた佐野と、現在進行形で遅刻の前野を除いた俺たちはそれなりに集中して課題に取り組んだ。が、集中力というものはそう長くは続かない。

ましてや、普段勉強する習慣のない者なら尚更なようだ。


(よし、これで課題全部終わった)

残りの夏休みはのんびり出来そう、と俺がワークを閉じたとき。その横では塔の建築中だった。


――あっ、あれ小学生の頃よくしてたなぁ。

ペンを二本ずつ平行に縦横に重ねて積み上げていくやつ、意外と難しいんだよな。

鉛筆だと安定感あるけどシャーペンだと難しくない?

……いや、水瀬さんプロ並みに上手くね? (そもそもこの遊びのプロが居るのか疑問だが)目つきからして只者では無い気がする。

なんだか邪魔をするのも気が引けたので暫く眺めていると、突如ぐらりと傾いた。


「「あっ」」


俺と水瀬さんの声が重なった次の刹那には、塔は崩れ落ちていた。

ペンは床へと散乱、うち一本は机の角に当たり弧を描きながら飛んでいく。

着地地点は――


「いでっ!」


佐野の顔面だった。

水瀬さんは『やらかした』と表情筋で語っているが、俺にとってはざまあみろ、だ。

サボって寝ているのが悪いんだばぁーか。

ごめんなさい! と水瀬さんは謝っているが、当の本人は何がなんやらサッパリな様子。そりゃ正体不明の何かが当たって、起きたらこれだもんな。同情なんてしないけど。


__そういえば倉科さんはどうしたんだろう。さっきから存在感がない。

実は寝てたりして、と思いながら見てみると、初めに解いていたワークはもう終わり違う課題に取り組んでいた。

(水瀬さんがペン散らかしたし音もかなりしていたのに……集中力凄いな)

俺は只々感心した。

倉科さんを見習ってもう少し勉強しようかとも思ったけど、教科書を見るや否や拒絶反応が出る。流石に疲れてしまった。


「そろそろ休憩しない?」

そう声をかけると目を輝かせる者が若干名。

「私今日美味しいクッキー持ってきたの! ほら、最初に田中くんに渡したやつ! あれ食べながらお茶しようよ!」

「お、いいねいいね! あとなんかゲームしようぜ!」

急に元気になるじゃん、まあいいけどさ。


「ゲームって言っても最近はスマホでしかやらないからなぁ……小学生の頃に買ったWiiしかないけどいい?」

「うわ、久々に名前聞いたわ」

マリカーは当然持ってるよな? と佐野が聞くので、ソフトを出すと「さっすが田中」「わかっとるやん!」と声が上がる。

……なんだこの祭りみたいな雰囲気。とか思いつつ、久しぶりにするので自然と頬が緩む。


早速電源をつけると懐かしい音楽が流れた。

そしてキャラクターなどを選択し終え、何カップにしようか選んでいるときだった。

「私実はこのゲームだけは大得意なんだよね」

ふっふっふ、と悪役のような不吉な笑みを浮かべ水瀬さんが言った。

(フラグかな……?)

多分そう思ったのは俺だけではない。

佐野が小声でボソッと「今の絶対惨敗宣言だろ」と言ったのを俺は聞き逃さなかった。そして「いつものことだよ」と耳打ちした倉科さんの声も。

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