第28話 表情管理
扉を開けると同時に、俺の心は打ち抜かれた。
夏休みだし、当然私服だってことは知っていた。
だから昨日の夜、どんな服が似合うかとか、こんな髪型もいいとか(正直どれも似合うけど)そんなことを考えていた。
だが彼女は、俺の想像をやすやすと超えてきたのだ。
白のふわふわとしたロングスカート。
襟付きの白いブラウスに、靴は黒のスニーカー。
ポニーテールをして小さなかごバッグを持っている水瀬さんは、どこかのファッションモデルなのかと疑ってしまうほど良く似合っていた。
とはいっても俺はファッションには疎く、流行などはさっぱりなのだが、今の彼女が可愛いという事だけは確信を持って言える。
そのくらい水瀬さんは、すごく可愛かった。
「お家にお邪魔しちゃってごめんね。これつまらないものだけど良ければ……」
水瀬さんが手土産の入った紙袋を差し出しながら言った。
「わざわざありがとう」
と平然を装いながら、俺は手を伸ばした。
「「あっ」」
__ほんの一瞬、当たってしまった。
俺は思わず掴んだ手を離してしまった。
どうやら水瀬さんも離してしまったらしく、紙袋は真下へと落ちていってしまう。と、その時シュッと黒い影が俺の足元に現れた。
「__危なかったぁ。ギリギリセーフ」
うちの反射神経素晴らしすぎるわ、と下から倉科さんの声がした。
手にはさっき俺が落とした紙袋が握られていた。
「おー! 流石バレー部エース!」
拍手しながら賞賛する佐野に、倉科さんもまんざらでも無さそう。
「ていうか、暑いしそろそろ入ろうで。ほら! 真雪も行くよ」
と倉科さんは水瀬さんの手を引いた。
「う、うん! お邪魔します」
それに続けて佐野も中へと入っていった。
「お前の部屋でいいのか? あとトイレ借りたいんだけどー!」
佐野がまだ玄関にいる俺に向かって叫んでいる。
でも、お願いだからもう少しだけ待って欲しい。
多分時間で表せば0.5秒とか、たったそのくらいの間だったのに。
__あぁ、本当にだらしないな。
こんな表情じゃ振り向けないじゃん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます