第27話 もう一人
「あ、そうそう。お友達呼ぶんだったら部屋掃除しておきなさいね。中学の間はたまーに掃除してあげてたけど、高校生になってからは一切してないからね」
スヤスヤと寝ていた父を叩き起こし、母は宣言通りデートへと出かけた。
さて、水瀬さん達が来るまであと一時間__ここからが戦だ。
俺は刀を構える武士のようにクイックルワイパー(ハンディータイプ)を構えた。そしてそれを机の上や本棚の上にスゥーっと滑らす。
「うわ、きったな……」
どのくらいかと言うと薄紫のフワフワが灰色に変わるくらい。それもたった二か所しただけでその面が色づくほどの汚れだ。
普段から割とまめに掃除してるのに何でだろう、と俺は考えた。
(あれ、でも最後にしたのいつだっけ)
少なくとも今週はしていない。じゃあ先週? いや先々週? 全く記憶にない。
まぁ仕方ない仕方ない、入学してからドタバタしてたし。課題とかテストで忙しかったし__これは仕方ない。
俺は順調に掃除を進めた。
そして五十分後。
「なんという事でしょう……!」とナレーションをつけたくなるほどに、部屋は隅から隅まで美しく元の姿を取り戻していた。
何処を触っても埃一つないし、漫画も巻数が綺麗に揃っている。
女子高生に見られても安心安全の部屋の完成だ。
「はぁ、結構疲れたな……」
腰に手を当て身体を反らすとボギボギっと大きな音が鳴った。
俺は服を着替え、髪をそれっぽくセットした。とは言ってもワックスなどのスタイリング剤を上手く扱えるような能力は持ち合わせていないので、水で濡らしてドライヤー。ヘアアイロンで毛先を挟むくらいのセットだが。
まぁ寝ぐせは直したから大丈夫だろう。
全ての準備が終わった俺は、一先ずリビングのソファーに座ってみんなを待つことにした。
(どこか変じゃないよな? 片付けしたし、服着替えたし……)
一通りの事はしたので大丈夫なはずだけど凄くソワソワする。
なんつったって女子、しかも水瀬さんが来るんだよな。何だか現実味がないし、最近また水瀬さん変だったから尚更緊張するし。
それに、もう一人はもう一人で問題ありなんだよなぁ。
あーやばいやばい、と繰り返しているとピンポーンとインターホンが鳴った。
よし……行くか。
俺は玄関へと小走りで向かい、扉を開けた。
「久しぶり、佐野と水瀬さんと__倉科さん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます