第25話 休み時間②
廊下に出ると教室内の賑やか声は聞こえず、ミンミンゼミの五月蝿い鳴声が校内を巡っていた。
そして冷静になり彼女の言葉を思い返した。
「佐野くん、ちょっといいかな?」という言葉、もしかしたら、いやありえないと思うけど。
(告白だったりするのかな)
そう思ってしまった。
佐野は世間一般的にはイケメンの部類だし、バスケ部だしノリがいい。
認めたくはないが、女子にモテるタイプだ。
(もしかしたら、俺の中で勝手に水瀬さんは例外だと決めつけてしまっていただけで、例外じゃないのかもしれない)
__ちょっと嫌だな、と俺は思った。
別に佐野は良い奴だし否定はしない。
でもどうしても嫌だと思ってしまう。
けれども俺がたった今悩んだとて、どうにもならないのだ。
“行動しなければ何も変わらない”
“曖昧な気持ちのまま二人の恋路の邪魔をするのはきっと良くない”
二つの正論が渦を巻き、結局俺は何も出来なかった。
暫く待ち教室へ戻ると、赤面した水瀬さんを背に、気味が悪いほどにニヤニヤとした顔の佐野が、俺の方へ来た。
本当は内容なんて聞きたくもない。
でもこの状況で尋ねないのは不自然な気がしたので、仕方なく「さっきの、何だった?」と尋ねた。
するとより一層ニヤつきながら「青春だった、初々しさの塊だった」と言うのだ。
良く分からないけど、青春と言うからにはそういう事なのだろうか。
「……告白されたとか?」俺は尋ねた。
勿論冗談抜きのつもりだったが、佐野はため息にも満たない息を吐き、俺の背中を優しく撫で始めた。
「それ
「__え、どういうこと。というか何で急に名前呼び?」
「いや、何でもない。とにかく頑張れ、応援してるから」
何のことだ、何を応援されたんだ。
「あ、それで……告られたの?」
再度尋ねると、佐野は俺の事を引いた目で見てきた。
「この期に及んでまだそれ言う? 別に告られてないから、もうそろそろ離れろ。近い」
そう言って俺の頭を掴み、軽く後ろに押した。
「あれ、俺なんで近づいてるんだ?」
「知るか」
佐野は辛辣な返事を言い捨て、スタスタと自席へ戻った。と、思ったら何故か窓側の俺の席へ戻ってきた。
「さっき言うの忘れてた。お前が夏休み勉強会開くって言ってただろ? あれ、水瀬さん達も誘っておいた。前野もオッケーだってさ」
そして、じゃあそういうことで! とグッドサインをしてきた。
(__夏休み、勉強会…………ミナセサン?)
「____はぁ⁉ どうしたらその流れになるんだよ!」
「色々あって。別にお前だって嫌ではないだろ?」
「確かに嫌ではないけどさ? そうじゃなくて……」
「まぁその気持ちも分かる。でも、どうしても来てほしいんだ」
頼む! と佐野は目を瞑り顔の前で手を合わせた。
どうやらマジの頼みらしい。
「っ仕方ない、良いでしょう」
そう俺が許可をすると、佐野は目の前でよっしゃ! と分かりやすく喜んだ。
「なんでそんなに必死こいて水瀬さん呼ぼうとしてんの?」
ふと疑問に思い尋ねると「今は言えない。でもいつか俺に感謝することになると思うぞ? いやー楽しみだわ」とまたニヤけていた。
(全然理由分からないけどまあいいか)
半ば諦めた俺は、いつも以上に楽しげな佐野を眺めることにした。
そして休み時間が終わり、授業が始まって十分程経った時だった。
(あれ、そういえばさっき水瀬さん達って言ってた……?)
思い返せばそう言っていた気がする。
達ということは__水瀬さんだけじゃない?
(一体誰が来るんだ……)
まだ顔の赤い水瀬さんの隣で、俺は途轍もない不安に襲われていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます