第24話 休み時間①

「コバセンが夏期補習来いだってさー、俺の青春どっか行ったわ」

十五分間の休み時間、他のクラスメイト達が楽しそうに話している様子とは対照的に、俺の机にだらりとうつ伏せながら、佐野はそう嘆いた。

そんなこと言ったって最下位を取った佐野が悪いんだけどな、と言いそうになったがグッと抑えた。

多分こいつは夏にロマンを求めるタイプなのだ。

そして高校生という人生でたった三年間しかない期間を、とても美化しているような気がする。

俺としては夏休みなんて積み本を消化したり課題をさっさと終わらしたり、一回は友達と遊べたらいいと思っているくらいなのだが。

まぁ、部活に勉強会に補習とは実に学生らしい夏休みじゃないか。

本人に言ったら煽っている感満載だし言わないけど。


「コバセンに逆らったら家まで押しかけてきそうだし、大人しく行った方が身のためだぞ」

「だよなぁ。あの人普通に怖いし、身の安全を優先するか……」

そう言いながら、佐野は机の上に顔を伏せた。

そして小声で「なぁなぁ、さっきから気になってるんだけど」と言った。

俺はすべて聞かずとも内容に察しがついた。

「水瀬さん、チラチラこっち見てるよな……?」

「……多分、そうだと思う」


そう、本当は佐野と話し始めたときから気になっていた。

(あれ、視線を感じる気が……)

以前もこんなことがあったし、流石に自意識過剰かと思ってスルーしていたが、やはり見ている。

ふとした瞬間に、チラリと見ているのだ。

「最近二人仲良いと思ってたのにどうしたんだよ。ついにやらかしたのか?」

「特に何もしてないはず。というかそんなに仲良さそうにみえる……?」

そう尋ねると佐野は何を今更、と若干呆れながら「教科書見せてもらったり一緒に話してたじゃん。あの水瀬様と気軽に話せるのなんてお前くらいだわ」と言った。

(水瀬さんって結構普通の女の子だけどなぁ)

確かに容姿は人一倍整っているけど、ラノベが好きで勉強が少し苦手で笑顔が可愛い普通の女の子だ。

この事を教えればきっと佐野も水瀬さんと話せるだろう思った。

でも、もう少しだけ秘密にしておきたい気がして、俺はあえて教えてやらなかった。


「__で、どうするよ。この状況」

「田中が直接水瀬さんに聞けば?」

「さすがに無理」

そう答えると「じゃあ俺が聞いてみようか?」と佐野がやけにノリノリで言った。

「えっちょ、まってまじでまって」

俺が言い終わる前に、佐野は水瀬さんに話しかけた。

「あのー水瀬さん、先程からなにかお困りですか?」と。

一体さっきまでの勢いはどこへいったのか、堅苦しい敬語で話しかける様子に笑わずにはいられなかった。

そして水瀬さんは「あ、えーっと……特にございません?」と物凄く戸惑いながら、俺の方をチラチラと見てきた。

水瀬さんに助けを求められているのかと思ったので、急にごめんねと俺が言うと彼女は想像とは違う反応をした。

「__やっぱりお困りです……佐野くん、ちょっといいかな?」そう言ったのだ。


当然俺と佐野は顔を見合せた。

(これ、やらかしたの俺のパターンじゃね?)

(……ワンチャンある)

(まじかよ、どうしたらいいんだよこれ)

少しの間佐野と目で会話をしていたが、水瀬さんを待たしてしまうので「じゃあ、俺は向こう行ってるわ」と、気を使い教室を離れることにした。

決して見捨てた訳ではなく、気を使っての行動だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る