第37話 夏のおかいもの
「これいいやん! あ、こっちも似合いそう」
りっちゃんがあれもこれもと沢山持ってくる。白にピンクに、水色や赤まで。
「りっちゃん……今日買うのは1着だけだよ?」
「そうやけど一番似合うのがええやん」
「そうだけど……」
それにしても持って来すぎだと私は思うの。
ほら、店員さんも見てるし。あれ、こっちに来てる気がする。
「どのようなデザインの物をお探しですか?」
きたっ、と思ってしまった。
普段1人で服屋さんに行った時でも「いい感じの服無いかな」くらいの気分で店内を巡回していると、よく話しかけられる。どのようなものをお探しですか? と尋ねられるけど、別に探してもないしお目当てもないのだ。
「あっ、いや。これなんか可愛いな〜って思ってただけで」
そう言いながら、たまたま近くにあった服を手に取って大嘘をつく私。そうすると店員さんは「この服は最近入荷したばかりなんです!」大人気なんですよ! 例えばこれとこれを組み合わせて、うんたらかんたら。
その間私はそれっぽい相槌を打ちつつ、この店員さんから逃げることしか考えていない。
「他の服も見てみます」の逃げセリフで店外へ逃走がお決まり。そしてその後どっと疲れがくるのだ。
でも今日はひとりじゃない。
なんて言ったって、りっちゃんがいるのだから!! 上手に交わしてくれるはず!!
期待の眼差しをりっちゃんに向けていると
「そうなんですよ、夏といえば海だし行きたいなって思って! この子に似合うのを今探してるんです!」
と言って、私の背中を押してきた。
目の前には店員さん、後ろにはりっちゃん。
(味方だと思ってたのに…!!!)
酷い裏切りだ。こんなサンドウィッチにされるなんて思ってもみなかった。
もうそこからは完全に店員さんとりっちゃんの空間だった。
「これとかどうですか? お客さん小柄ですしお顔立ちも可愛らしいので小花柄も似合うかと」
「えー! いいやんいいやん!! あ、でもこっちのも良さそうじゃないですか?」
「なるほど! 確かにそれもありですね」
もうずっとこんな会話をしていて、当の本人である私は完全に置いてけぼりだ。
結局15分くらいこのやり取りをした後に、どうやら3択に搾られたらしい。
「私たち的にこの辺が似合うんちゃうかなって! 真雪はどれがいい?」
激戦区を勝ち上がってきた3着は流石と言っていいほどの可愛さだった。
「うーん、どれだろう……あっ!」
胸元にリボンがついた、オフショルのワンピース。白の水着は他にもあるけど、このフリルが1番可愛い。
「私これにする!」
「ありがとうございました! 海楽しんでくださいね」
お会計の後に店員さんがそう言ってくれた。
普段店員さんと話さないのもあって、そんな一言で心がふわふわ暖かくなる。
「可愛いのが買えてよかった!」
「そうやね〜、絶対真雪に似合うし」
でも何か買い忘れたような気がするんよなと、りっちゃんが言った。
(なんだろう? 何かあったかな……)
「あっ、自分の水着買うの忘れてたわ」
「え!? りっちゃん持ってなかったの? 私のばかり見てるからてっきり持ってるものとばかり」
「学校用しか持ってなくてさ。すっかり忘れてた」
うっかりうっかり、と笑うりっちゃんになんだか私まで可笑しくなってしまった。
「それじゃあもう1回行こっか」
「だね」
お店に戻るとさっきの店員さんが「どうしたんですか!?」と驚くのでまた笑ってしまった。
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