第38話 ナマケモノ、海に行く。

灼熱の太陽、キラキラと煌めく海! そしてそして……

(うーーん、どれも美味しそうだなぁ。)

そう、海の家である!



今日は夏休みが始まって1週間くらい経った、8月のはじめの日。連日テレビでは「最高気温が35℃を記録しました」「熱中症にお気をつけください」と、地球と太陽の熱愛報道ばかりだ。


「こんなに暑いのにお外に出かけるなんて無理だよ……とろけちゃう」

ただでさえ外出を好まない私だ。それに夏もあまり好きじゃない。

だって暑いんだもん。どんなに可愛いお洋服を着ても汗をかいちゃうし、かぶれちゃうし。それに何より、あの肌を焼き破って来るんじゃないかと思うくらいの日光、あれがかなりの曲者だ。

「本当に海、行くのかなぁ」

みんなと遊ぶのはとっても楽しみだけど、暑さのせいで何だか億劫になってきた。

「この前ルンルンで楽しみなんだーっていってたじゃないの。可愛い水着も見せびらかしてきたくせに、もう。」

前世はナマケモノかしら、とお母さんが言ってきた。

「ナマケモノでもいいもーん」

ソファにごろんと寝転んで、スマホを見る。いよいよ明日が、みんなで海に行く日だ。

りっちゃんの水着姿楽しみだなぁ―――暑いのは嫌だけど。

それに、久しぶりに千隼くんにも会えるのも嬉しいし! ―――暑くなければいいなぁ。

(あぁダメだ。語尾が太陽を嫌ってる)

でも、もう予定が入ってるなら行くしかないのだ。太陽に負けるな、私!

そう思っているとピコンとメッセージが来た。

『明日楽しみだね!』

送り主は……!? びっくり、千隼くんだった。

そして続けてピコンと、今度は海でぷかぷかと浮いているラッコのスタンプが送られてきた。可愛い。

それに、千隼くんが楽しみにしてるだって? だったら絶対に行かなくては!!



―――と、ここまでが昨日の夜の出来事である。千隼くんの影響凄まじきと言ったところだ。


そして今日の朝にみんなと待ち合わせをし、電車を乗り継ぎ、遂に海に着いたのがついさっき。

「うっわー! 海めっちゃ久しぶりやねん、泳ごーっと」

「ちょっと待てよ、俺が1番に入ってやるんだ!」

着くなり猛ダッシュでりっちゃんと佐野くんが走っていった。

「あいつ夏期講習でかなりしんどかったらしいからな。そのせいで夏休みに遊ぶの今日が初めてらしいよ」

と、千隼くんが言った。

「まあ俺も家に引きこもってたから今日久しぶりに外に出たんだけどね」

「えっ、私もだよ。暑すぎて外に出れなかった」

まさかまさかの、千隼くんも同類だったとは……! 仲間を見つけて少し嬉しい。

やっぱり暑いもんね。


「あ、そういえばここの海の家。メニューいっぱいあるし美味しいらしいよ」

思い出したように千隼くんが言った。

そこの海の家でバイトをしている前野くん情報なのだが、王道に焼きそばやかき氷、ソフトクリームにフライドポテトにカレーにラーメンに……。とにかく沢山あるらしいのだ。ごくりと喉がなる。

「それは行くしかないですよね? ね?」

ちょーっとだけ圧をかけてお願いをしてみた。すると千隼くんは「そう言うと思った」と笑いながら、こっちだよと、案内してくれた。

えへへ、何食べようかなぁ。

家族でも中々海に来ないから、地味に海の家初めてなんだよね。

私は胸の高鳴りとヨダレを抑えながら千隼くんの後を追った。


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