第15話 不審者

「__はい、そこまで」

その一声で全員の緊張がとけた。

そして「これで自由だ!」と歓喜を上げながら謎のダンスをする奴や、全てを悟ったような顔をしている奴など、教室はカオス状態であった。

言わずもがなテスト前あれだけ騒いでいた佐野や前野は後者、死んだ魚のような目をして放心していた。

テストが出来たのか、出来なかったのかを聞くことすら酷に感じたのでそっとしておこうと思う。


結局俺が馬鹿二人(佐野と前野)と水瀬さんに教えたヤマは当たっていた。

しかし、あまりにピンポイントで比較的簡単だった為数えるほどしか出題されていなかった。

恐らく合計で10点分もない。

(お、俺は悪くないよな……? 一応当たってはいたし、うん)

そう自分に言い聞かせながら、問題用紙を軽く見返した。

毎日コツコツと勉強していたおかげか特別焦るような教科もなかったし、今回の考査も学年順位10位以内には入れるだろう。

安堵した俺はつい習慣的に隣の席をチラ見した。


__彼女の横顔は息を飲むほどに美しく綺麗な真顔であった。

いや、常に綺麗なのは変わりないが、今日はいつにもましてThe美少女という雰囲気を醸し出していた。

そして、背筋をピンと伸ばし手を添え黒板を見据えている彼女、水瀬真雪はまったくこちらの視線に気づかない。

いつもやたらと見てくるお返しにと、不審者並みに見つめてみたがそれでも気づかない。

俺は粘りに粘って終わりのSHRが終わるまでしてみたが、やはり効果はなかった。


(体調でも悪くなったのか?でも姿勢はやけに良かったしなあ……)

そう悶々としながら靴を履き替えて学校を出ようとした。

すると突然、謎の衝撃が背中に走る。

こんなに雑な絡み方をするのはあいつしかいない。そう思い振り返ると予想通り、佐野だった。

「なあなあ、今日体調でも悪かったのか?」

そう俺に尋ねた。

「やっぱりそう思うよな? 視線にも気づかないし」と返すと、は? と言われた。

話を聞くと、どうやら水瀬さんではなく俺の体調を気遣ってくれていたらしい。

「ずーっと水瀬さんを見つめてたから、水瀬様パワーでも受けて元気になろうとしているのかと思った」

だそうだ。

信者フィルターを通すとそんな怪しいものが放たれて見えるのか。

少し引いたが、俺を気遣ってくれたのでプラマイゼロということにしておこう。

俺は大丈夫だとだけ返し、家に帰った。

一方佐野と前野は、今から“テストお疲れ&赤点回避対策会”という今更どうしようもないことを議題に話し合うらしい。

俺も誘われたが、丁重にお断りしたのは言うまでもなかった。

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